もはやMTに存在価値ナシ!? イマドキのATの強烈な進化っぷりとは (2/2ページ)

「中谷シフト」にも勝る変速スピードを持つATも存在

 このようなMTとATの機構的な差は長く埋まらなかったが、近年状況に変化が見られるようになった。ATのメカニズムが多用化しMTの効率を超えるものが出始めているのだ。

 現代のATには前述のトルコン式の他にCVT(無段変速機)方式、DCT(デュアルクラッチ)方式、自動クラッチ式などがあり、トルコン式もロックアップクラッチを内蔵する進化した仕様が主流となるなど進化してきている。これらはいずれも電子制御で自働的に作動するので、どのようなキャリブレーションプログラムが施されているかで走行特性も効率も、そしてクルマとしての速さも変わってくるのだ。それを上手く制御できればMTより速いATとすることも可能になってくる。

 実際にどのような制御や特性となっているか、基本的なものを紹介すると、CVTは油圧でイン・アウトそれぞれに配したプーリーをベルトでつなぎプーリーの径をそれぞれ可変とすることで変速比を連続的に変化させる仕組みだ。

 構造が簡単で軽量小型化でき、常時ベルトが接続しているので損失も少ない。連続可変が可能なのでエンジンの最大効率回転数を保ったまま変速させることができ、燃費的にも好数値が引き出せる。一方、プーリーとベルトの結合力は摩擦力に頼り大きな圧着力が必要で、大パワー、大トルクには適していなかった。

 トルコンATも進化し、トルコンの内側に直結クラッチを設けエンジンの出力をダイレクトに車軸側へ伝えることができるようになった。発進時の1速から6、7、8、9、10速へと多段化も進み、全段ロックアップするものも現れ始めている。トルコンのトルク容量も強化され700N・m、1000N・mというような大トルクに耐えられるものも存在しているのだ。ネックとなるのは重量が重く運動性能に影響することと、油温や油圧管理が難しいことがあげられる。

 そうしたなかで、スポーツ指向の強いATとして登場したのがDCTだ。大小2枚のクラッチで構成し同時に接続と切り離しを行うことで切れ目のない動力伝達を可能としている。また変速時のタイムラグも無くすことが可能で、さすがに「中谷シフト」もDCTの変速スピードには敵わないのだ。

 DCT は変速プログラムを適切に設定すればシフトアップやシフトダウンも最適値でこなすことができる。ジムカーナやショートサーキットなど1〜2速間の変速を多用するようなシーンではMTをマニュアル操作するよりはるかに速く、そして確実だ。MTでシフトミスをすれば最悪エンジンをオーバーレブさせて壊してしまう。DCTならそんな心配から解放され、ステアリングに集中し思い切りアタックできるのだ。このようなサーキット専用アタックモードを備えるDCTは今では生産中止となってしまったランエボXが採用していた。

 DCTの弱点はATほどではないが重量が重くなること。変速制御は油圧を介して行うものがほとんどで、より速い変速を可能とするために、あらかじめ次のギヤを予測してエンゲージしておくプリセレクト機能も油圧を用いるためオイル撹拌抵抗によるエネルギー損失が大きい。こうした事からDCTは多くのケースでMTより変速が速く、確実だが最高速度の向上や耐久性面ではまだMTに劣る。

 速さを求めるなら現状理想的なATは電磁自動クラッチを用いたオートクラッチシステム(いわゆるセミAT)ではなかろうか。ランボルギーニ・アヴェンタドールやガヤルドなどスーパーカーにも採用されていて、レースでも実績がある。これをステアリングコラムパドルで操作するか完璧なプログラミングでDレンジ走行できれば2ペダルでも3ペダルMTを確実に凌駕できる。

 レーシングカーはF1をはじめ上級カテゴリーにいくほど2ペダルが多くなる。今や3ペダルでヒールアンドトウに固執するよりステアリングパドル操作に慣れ親しむほうが速さに通じる時代なのだ。

  


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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