軽自動車にはMTを超えるトランスミッションが搭載されていない
はじめに断っておくが、僕はMT(マニュアルトランスミッション)派ではない。「中谷シフト」とか「マシンガンシフト」と呼ばれるようなMTを操る特殊テクニックを披露したことが世界レベルで話題になったが、それらはMTを操作する時間を最小にするために生まれたテクニックだった。詳しい解説はまた別の機会に譲るが、優れたDCT(デュアルクラッチトランスミッション)や2ペダルATがある現在では、あえて3ペダルのMTを選びたいとは思わない。
だが軽自動車にカテゴリーを絞って考えるとなるとDCTも優れたATもまだ存在しない。軽自動車でドライビングを楽しむならやはりMTの方が勝っているといえる。そこで現行モデルと過去にも遡って、ドライビングが楽しめるMT装備の軽自動車TOP5を選んでみた。
1位:ホンダS660
TOP1は現行モデルでもあるS660のMTだ。軽クラス唯一となる6速HパターンのMTが奢られている。その1〜5速はクロスレシオのギヤ比が設定されており、小気味良くシフトできる。6速はハイギヤード化して高速巡航性を高めている。単純にギア段数が多いからいいというわけではない。その操作性の正確さ、確実さも高く評価している。
S660はミドシップにエンジン/トランスミッションを横置きにレイアウトする。シフト操作はリンケージを通してリモコン操作するわけだが、カチっとしたダイレクトな操作感に仕上げられていてシフトポジションも明確だ。
またミドシップレイアウトの好特性を活かしハイスピードでコーナリングすることが可能だが、そうした場面ではシャシーに大きな捻り応力が加わりリンクがスムーズに動かなくなってシフトし辛くなるものだ。
だがS660はサーキットでコーナーを攻めても正確なシフトができる。その理由はリアエンジンマウントに採用されたアルミ鋳造性のクロスメンバーにある。シャシー後端で捻り応力を受け止め極めてしなやかにいなすのでシフトリンケージに過大な応力がかからないと考えられるのだ。
2位:ダイハツ・コペン
コペンもまた現行型を推挙した。コペンに搭載されるMTは5速仕様だがスタート用の1速と多用される2速にダブルコーンシンクロを採用していることを評価した。
一般的な乗用車のMTはシンクロ(同期)ギヤがエンジン回転とシャフトの回転数差を同調させることでスムースにシフトできる仕組みを採用している。通常はシングルコーンといって1枚のシンクロギアで構成されているが、1枚では負荷に弱く、多用すれば消耗も速い。ヒール&トウを上手く使いエンジン回転数を変速ギヤに合わせる技術に習熟していればマイレッジを伸ばせるが、それでもスポーツ走行していたら摩耗が早く進行してしまう。
このシンクロギヤをダブルの2層構造にするのは技術面でもコスト面でも過酷だが、ギア操作性の安定性確保には極めて有効だ。
ちなみにランサー・エボリューションではⅨ以降全段トリプルコーンシンクロに1〜3速ギア歯面にショット加工も加えるなど加工硬化を与えてさらに耐久性を高め「中谷シフト」に耐えられる設計としていたのだ。