人馬不一体御免! 元レーシングドライバーが語る運転を大きく左右する市販車の良いシート悪いシート (2/2ページ)

乗り心地の悪さには着座姿勢に問題がある場合も……

 座面が固すぎて尻が痛くなるという人は着座姿勢に問題があるともいえる。シートに浅く腰掛け寝そべったような姿勢で着座すると腰とシートバックの間に隙間が生じ、臀部とシートの接触面積も小さくなる。小さな面積に全体重がかかるので面圧が大きくなり尻が痛くなってしまうし、腰にも負担がかかり腰痛を引き起こすというわけだ。

 固いシートに着座する時は座面の奥深くまで腰掛け、身体とシートの接触面積をできるだけ大きく保ち面圧を下げるのが正しい座り方なのだ。接触面積が大きくなることで摩擦面積も増えサポート性も高まる。こうした正しい着座姿勢をとることが人馬一体となるうえで非常に重要で、面圧が下がれば固いという印象も相当におさまるといえる。

 そしてシートにはクッションの固さだけでなくボディサイドのサポート性やシート座面の角度も前後左右のGに対して身体を正しく保持するためには重要となる。多くのクルマは前後スライドやシートバックリクライニング調整機能が与えられており、人馬一体を重視すればするほど調整機能の多さが必要になる。人の体格は千差万別であり多くのドライバーを満足させるには調整幅の広さが必要だ。

 なかには11箇所の調整が可能というようなマルチアジャスト機構を持ったシートもあり、そうしたシートを採用するメーカーこそが人馬一体に関して深く考慮しているといえる。ただ調整機構を多く備えるとコストがかかり高額になる。

 また微小な調整には電動の無段階調整が必要となり、そうなると重量も相当に重くなる。1脚当たりのシート重量が60kg代になってしまうのは欧州車では珍しくない。その重量級のシートを支えるシートレールも高い剛性が必要であるし、衝突安全性を確保する為にシート自体の骨格も相当強靭に造り込まなければならないだろう。

 これまでの経験からシートに不満を感じることなく着座できたモデルはBMWのアッパーグレードモデルであることが多かった。

 またシートレールによる前後スライド以外は一切調整機能を持たないのに優れた着座姿勢とサポート性、座り心地の快適さが得られる驚きのシートを装備していたのは「ランボルギーニ・ガヤルド・スーパートロフェオ・ストラダーレ(STS)」だった。フルカーボンで軽量ながら高剛性なSTSのシートは長時間運転でもまったく腰に負担が掛からず、駐車したらそのまま眠れてしまうほど身体にフィットしていた。横幅はゆとりがあるが深さも大きくサイドサポート性が高い。スリックタイヤを装着して富士スピードウェイを1分47秒というレーシングカー並みの速さで走った際も、Gに対ししっかり身体を保持してくれて正確な運転操作が可能だった。今でもスポーツシートを評価する際のベンチマークとしている。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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