男性乗務員からすると女性客のほうが怖い
昔から男性乗務員は女性の乗客にはあまり話しかけないようにと指導しているようだ。乗務員はかなり年配のひとが多いので、若い女性の乗客に対しては、どうしても“上から目線”調になったり、“セクハラ”まがいの話しになりやすいからである。もちろん女性客すべてがNGというわけではなく、そこは経験に基づいて話しかけていいかは判断しているようだが、男性客に比べるとリスクが高いのが女性客とされているようだ。「男性より女性のお客さんのほうが、何かと怖いね」と意味深に乗り合わせた乗務員さんが語ってくれたこともある。
状況が許すなら乗客と話していいとするのが、タクシー業界の基本的スタンスと筆者は考えている。ただ話題にしてはいけないことに、“プロ野球”、“政治”、“宗教”などがある。たとえばプロ野球ならば、乗客の応援している球団を、知らないうちに批判してトラブルになることもある。また政権与党を批判したら、与党支持の乗客だったということもあるらしい。
ある地域のタクシー会社が、会社を挙げて必要な会話以外は行なわないことにしたという報道が少し前にあった。筆者としては会社があえて会話をするなと指示するのは少々納得がいかない。
タクシーに乗ったら静かにしていたいというお客がいる一方で、乗務員さんと話しをするのを楽しみにしている乗客もいるはずだ(話しかけられても嫌がらない)。“話かけをして欲しくない”という“声”が大きいからといって、画一的な対応をとるのはそれがまたクレームの対象にもなりかねない。バランスをとって、トラブルにならないように指導するのが適切だと考えるのだがいかがだろうか?
某地方へ出張に行った時に仕事先から帰る時に、その地域では丁重なサービスで有名なタクシー会社の車両を取材先が手配してくれた。車両は内外ともに清掃が行き届き、乗務員さんも制服をパリッと着込んでいる。運転も丁寧なのだが、目的地まで結構距離があったのだが、一言も雑談をしてこなかったのである。
筆者個人としては、プロドライバーなのに、どこか接客マニュアルありきの“ファミレス”のような画一的な接客だったので、非常に物足りない気がするのと同時に、「場慣れしていない新人さんかな」と、少々不安になってしまった。しかし、それがあえて“いい”という乗客もいるから評判が良いのも確か。
ちなみに地方出張で取材先の最寄り駅に降りたち、タクシーに乗ると“よそ者”がバレバレなこともあり、「どこからきたの?」から始まり、乗務員さんが積極的に話しかけてくる。そのなかで不案内な土地の地元情報を乗務員さんから聞くのは筆者の地方出張の楽しみのひとつである。
乗務員さんから話しかけるのではなく、会社で嫌なことがあったりして誰かと話がしたくてタクシーに乗るというひとも目立つ。要は一概にタクシー乗務員との雑談を否定する必要はない。タクシーを利用する側としても会話を通じて乗務員さんの人柄に触れ安心することもできる。逆にタクシー乗務員もお客へ話しかけることで、安心することもあるのだ。ただ、昔に比べれば何かとトラブルになりやすい世の中なので、乗務員さんも、話しかけて良いかは慎重に判断してから声掛けしているようにも見える。
ただ今後自動運転化が進むなか、将来的に筆者がAI化された無人タクシーに乗った時に、“おしゃべりなタクシー”であったら、何か作為的なものを感じて話しかけて欲しくないと思ってしまいそうだ。