原則としては必要事項以外あまり話しかけないことに
筆者は東京都内や自宅最寄り駅などで積極的にタクシーを利用している。仕事柄タクシーに関する原稿執筆なども多いので、現場の乗務員さんの生の声に触れることのできる貴重な時間と判断している。そんなことを思っていて、いざ手をあげて停まってくれたタクシーに乗ったら、無口な乗務員さんだった時には少々がっかりしてしまう。
タクシー事業者の新人乗務員研修の時には、何も積極的に乗客に話しかけるようにと指導しているわけではない。基本的には、お客を乗せたら目的地を聞き、そこまでの経路を確認し、空調の温度設定が適切か、シートベルト着用のお願いなど、安全・安心運行に必要なこと以外はむやみに話しかけないのが原則となっている。
しかし、“隔日勤務”となると休憩を挟みながら、最長で20時間ほど乗務することになるので、乗客に話しかけたくなるのも人情というものである。また、夜間ならば挙動不審とばかりはいかないが、「もしかしたら……」という時には、様子を探るためにも話しかけることもあると聞く。
筆者の経験からいけば、タクシーに乗っていてそれまでは会話がなかったのに、ほかのクルマの交通取り締まりの現場など、ハプニングのような場面にともに遭遇したりすると、その後は一気にお互い話し出して盛り上がるということが多い。
また、稀なのだが、東京都内の仕事場から終電が終わったあとに東京都外の自宅に帰る時に道端で手をあげてタクシーを停めて乗り込み、「●●まで(だいたい都心から40㎞の距離)」と伝えると、「ロング(長距離利用客)をあてた!」という喜びから、それ以降自宅に到着するまで、乗務員さんがしゃべりっぱなしというケースも圧倒的に多い。筆者ばこのチャンスを活かすために、根掘り葉掘り業界裏話みたいなものを聞き出している。
ただタクシー乗務員も、乗客の様子をうかがいながら乗務するのも仕事のうちなので、自分たちなりに“話していい乗客”なのかどうかを見分けて話しかける乗務員さんがほとんどのようである。筆者も時には疲れ切って深夜に自宅までタクシーで帰ることもある。そんな時は「お客さん近くまで来たら声かけますから、安心して寝ていいですよ」と声掛けしてくれることもあるので、ベテラン乗務員ほど、“その場の空気”を瞬時に読んで対応しているのである。
なかにはそのあたりを考えずに一方的に話しかけてくる乗務員さんもいるので、そのような乗務員さんの場合はたちまちクレームの対象になってしまうようだ。筆者も一度、よく話しかけてくるのだが、こちらが返答すると全部否定する乗務員さんのタクシーに乗った時がある。その時は「それなら話しかけてくるなよ」と不快な気持ちになり、よっぽどクレームをつけようかと思ったのをよく覚えている。このような性格の乗務員さんは必要以外乗客に話しかけないほうがトラブル防止の面では好ましいといえるだろう。