路面の荒れた公道でも安定したコーナリングを披露
スポーツカーの楽しさは、パワーや速さじゃない。いや、これまでもそういう言葉は沢山聞いたし、実際にそう感じたこともあった。それでも、胸の空くような加速を見せる350馬力を超えるようなクルマに乗ると、ややその考え方が揺らいでしまう。
だが今回、数日間スバルBRZ STI Sportに乗り、自信をもって「楽しさはパワーや『直線の』速さじゃない」と言えるようになった。普段の移動からして、じつに楽しかったのだ。
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さて、BRZ STI Sportだが、普段使いをすると、ハッキリ言って足は硬め。このあたり、伝わるように表現するのが難しいのだが、スポーツモデルになれた人なら毎日乗ってもまったく苦痛に感じることはない。だが、コンフォート系のセダンやSUV、ミニバンになれた人だと、スポーツカーってこういうハードな乗り味なんだ、と感じるというレベルだ。
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そんな足だが、じつに完成度が高い。継ぎ目だらけで路面の表面もかなり荒れていることで有名な首都高を走行するとそれがわかる。タイトなコーナーにて車体がロールした状態で、路面の継ぎ目から連続した突き上げを受けても十分に吸収し、ドライバーにはマイルドな突き上げとして伝えてくる。これが単に硬いだけの足の場合、身体全体がドスドスと上下に動き、ハッキリ言って不快なのだが、それがないのだ。
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加えて、キチンとアクセル&ブレーキで丁寧に荷重を操りスムースにステアリングを操作してやれば、そうした入力を受けてもタイヤがシッカリと地面に接地していて、姿勢が乱れることもない。ある種、公道を走る量産車の理想形である、荒れた路面のコーナリングでも一定のステアリング舵角のまま、走り抜けることができるクルマに仕上がっている。
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これを支えているのがタイヤだ。BRZ STI Sportが装着する18インチのミシュラン・パイロット スポーツ4は、少なくとも公道では十分なグリップをもたらし、それでいて路面とタイヤの状況を、ステアリングフィールとして十分に伝えてくる。
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じつは今回、サーキットではないが閉鎖されたアスファルト路を走行する機会があったのだが、ノーマルの86&BRZに比べ、確実にコーナリングでの限界性能は高まっていた。ボディ補剛パーツの効果もあるのだろう、減速、転舵、加速と、一連の動作のなかで姿勢変化が少なく、速いが走らせていて安心感がある。
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だがそれでいて一般のユーザーが持て余すような、高すぎるパフォーマンスになっていないところが楽しいのだ。少し腕のあるアマチュアなら、限界付近で走らせることも可能だろう。
このあたり、足まわりを中心にしたクルマ自体とタイヤのマッチングがいかに大切かを、改めて感じた次第。
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ということで、BRZ STI Sportはコーナリングはなかなかの速さをもっており「楽しさはパワーや『直線の』速さじゃない」という結論に至ったわけだ。
そこまで言っておいてなんだが、パワーやトルクではなく、エンジンはもう少し上質かつスムースに吹き上がれば、もっとドライビングが楽しくなることは間違いない。恐らくスバリストと呼ばれるファンにとっては「これぞスバル! これぞ水平対向」なのだろうが、世界各国さまざまなクルマに日々試乗する身からすると、このエンジンを手放しで褒められない。シャーシを中心としたベースとなるBRZの素姓が良いがゆえの注文だが、とくに低回転域の立ち上がりを求めたい。このあたり、価格とのせめぎ合いだが、エンジンに手を加えたコンプリートカーが見てみたいと思う。
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さて、このようにかなり気に入った同車だが、ついでなのでクルマとしてのアレコレにも触れておきたい。