なぜ最近のスーパースポーツカーは4WDを採用するのか?

強大なパワーを路面に伝えるにはタイヤ性能の向上だけでは限界

 日本が誇るGTカーの日産GT-Rの最高出力は、570馬力に達する。最大トルクは637N・mだ。この高性能を、4輪駆動で走らせる。

 馬力こそGT-Rに及ばないが、メルセデス・ベンツのS400dという4ドアセダンは、最大トルクでGT-Rを上まわる700N・mとある。

 電気自動車(EV)のテスラ・モデルSは、発進から時速100kmまで2.7秒で加速し、それはポルシェ911と遜色ない速さだ。

 かつて、1966年から80年代初頭にかけて、F1各チームの主力エンジンだったフォード・コスワースDFVは、最高出力が当初の408馬力から後期には510馬力となったが、それでも当時の高性能エンジンを代表する一基であった。そのパワーを、F1はリヤの太いスリックレーシングタイヤで受け止めていた。レースエンジンの性能はそのように、その時代の憧れであり象徴とも言えた。だが今日では、市販のスーパーカーやGTカーはもとより、スポーツカーと名乗らない4ドアセダンのEVがスポーツカー並みの性能を発揮するに至っているのである。

 もちろん、時代を経て市販高性能タイヤのグリップも上がり、市販される高性能タイヤがかつてのレーシングタイヤのグリップを上まわるほどの時代となっている。しかし一方で、タイヤの接地面積はハガキ一枚分と言われてきており、今日のスーパーカーやGTカーのタイヤが幅広いとはいえ、より偏平になり、接地面がかつてほどたわまないのだから、大径の高性能ラジアルタイヤとはいえそれほど接地面積が増えているわけではない。ハガキの長方形から、横へ細長い接地面積になっているだけだ。したがって、接地面ゴムのグリップが上がっているとはいっても、タイヤ性能としてのグリップにはおのずと限界がある。

 GT-Rも、かつてのレーシングエンジンほどの馬力を制御するため4輪駆動を活かしている。巨大なエンジンパワーを、4つのタイヤへ分散することで駆動力を無駄なく路面へ伝え、速さにつなげようというのだ。同時に、操縦性を落ち着かせる意味もある。

 加えて近年では、4輪制御のなかにトルクベクタリングという機能が加えられ、内輪と外輪の回転差に合わせ駆動力をも制御することで、進路をより的確に定める技術がある。これにより、単なる4輪駆動以上にタイヤのグリップを限界まで活かし、カーブを曲がる速度を高めようというのだ。もちろん、同時に姿勢変化による挙動の不安定さも抑える。

 こうした4輪の駆動力制御は、モーターのほうがより精密に行える可能性を持ち、将来的にスポーツカーやGTカーだけでなく、一般の乗用車も適用されていく可能性もある。またモーター走行をするEVなら、環境性能を満たしながらテスラの例にあるように超高速走行も同時に実現できる。そのうえで、自動運転との相性もいい。

 スポーツカーやGTカーにおける先進技術の革新は、今日もなお未来のクルマの行く末を暗示しているとも言えなくはない。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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