限界域でのコントロールは難しい! 腕の要求されるセッティング
さて、そんな新型スープラの既視感は強烈で、走り始めてすぐにA80型での激走が蘇ってきたほどだ。
1600rpmで最大トルクに達するというエンジンは十分に力強い。ドッカンとある一点で炸裂するような特性ではなく、全域トルク感が頼もしい。袖ヶ浦フォレストレースウェイのどのコーナーでも、ギヤの選択に迷う。というのも、高いギヤでも低いギヤでも、どちらで挑んでもイライラすることがない。悩ましい原因は全域がパワーバンドだからなのだ。
もちろんそれには、ステップ比を切り詰めた8速ATの恩恵もあるだろう。トルクコンバーター的なラバーフィールは薄い。2ペダルMTのごとく、小気味よくステップしていくのは心地よかった。パドルを使ってのシフトダウンも軽快だ。
操縦性は、ダイナミックである。ロール剛性は抑えめのようで、上体を前後左右にくねらせながら旋回する。フラットを保ったままの旋回フィールとは異なる。わずかにフロントに荷重を与えてやるだけで、いとも簡単にテールがスライドする。旋回中のステアに対しても、たえず反応する。いかなる時でもドリフト挙動を生みだしやすいのである。
あまり派手なドリフトに陥らないように、テールを抑え込むのに苦労したほどだ。ちょっと攻めるとテールがムズムズする。やんちゃな性格なのである。
ただ、中立付近ではピキピキと神経質な反応を示すから、ドリフトコントロールは簡単ではない。スピン覚悟の大アングルまでスライドさせれば、それなりの楽しみの領域は残されているけれど、写真映えする弱オーバーステアの挙動をキープするのは困難なのだ。
スライドアングル「ゼロ」付近の、微妙なカウンター走行は苦手だった。初期ロール剛性が優しいから、姿勢がピクピクしてしまう。リヤタイヤもニュートラル付近でピーキーたからだろうと想像した。
リヤデフには電子制御LSDが組み込まれている。0%〜100%の範囲でロック率を制御してくれるのだ。これがピクピクの原因かどうかは、限られた試乗要件の中では検証できなかった。
ステアリンクホイールの形状や角度も、スライドをコントロールを楽しむためのタイプではなかった。
電子制御の安定装置ASCが作動するから、たとえテールが流れすぎてもスリリングな状況からは回避してくれるだろう。だが制御をカットし、自在に振り回して遊ぶには、それなりのドライビングスキルが求められるのである。
開発陣は、トラクション性能を意識して開発したといい、ニュートラル付近のコントロール性には自信があるとのことだったから、個体のコンディションが悪化していたのか、あるいは僕が未熟なのか、そのどれかだろう。
ともあれ、遡って、試乗を開始した瞬間にマシンが体に馴染んだのには驚かされた。コクピットドリルも受けず、ピットロードで待機していたスープラの乗り込み、電動シートをアジャストしただけでいきなり走り始めたのも関わらず、ピットアウト後の1コーナーの進入時にはもう、慣れ親しんだマシンであるかのように違和感がなかったのである。
そう、スープラはスープラだった。A80スープラがデビューしてから25年が経過する。その25年間の技術積み重ねが新型A90型スープラに余すことなくことなく注がれている。BMWから学んだことも少なくないだろう。
だが走りの魂は失っていなかった。それが既視感の源だろう。A90型スープラは、最新先進のノスタルジーなのだ。