プロトタイプながら旋回性能を追求したことが見え隠れする
「旧型とまったく変わってないんだね」
新型のA90型スープラを見て乗って、いきなり感じたのは、未だに色濃く体に刻まれている既視感だ。もちろんネガティブな意味ではない。仕上がりは最新だが、これまでの4世代にわたる歴代が築いてきた伝統へのリスペクトを強く感じたからである。
かつては僕も、GT500をA80型スープラで戦った。ニュルブルクリンクでの度重ねたトレーニングでも、A80型スープラを素材としていた。スープラの姿は網膜に強く焼きついているし、ドライブフィールも染みついている。忘れかけていたその感覚が蘇ってきた。思いがけず、郷愁に包まれたも当然のことだろう。
じつは、試乗車はプロトタイプであり、詳細なスペックは公開されなかった。情報は敷かれた箝口令をかいくぐって得た関係者のコメントだけである。それだけに先入観を排除したピュアなインプレッションが得られたのは幸運だったのかもしれない。
フロントに搭載するエンジンは直列6気筒3リッターターボ。駆動輪は後輪である。
「それがスープラのヘリテージです」
開発責任者の多田さんが、そのことに関しては力強くそう語った。
BMWとの共同開発であり、エンジンとミッションを含め、プラットフォームもBMW設計だとの噂は真実だろう。さまざまなパーツはBMW製である。日本でのちにデビューするBMW Z4とは二卵性双生児の関係になる。だが、スープラがドイツの軍門に下ったわけではない。根底のところでは伝統を守り通しているのだ。
特徴的なのは、ホイールベースが極端に短いことだ。トレッドはワイドに思えるが、前後スタンスはあの86より短いというのだから驚きだ。重心高も86より低いという。ワイドトレッドでショートホイールベースの比率は1.6以下。旋回性能へのあくなき追求が透けて見えるのである。
前後重量配分も50対50を実現しているという。かつてトヨタは、フロントヘビーが理想だと断言していた。とくにFRは52対48あたりが理想値なのだと。新型スープラで前後ウエイトバランスを整えたことはまさに宗旨替え。BMWとの開発コラボが影響したであろうと想像する。
最低地上高も110数mm以下に抑えたという。「駐車場でのクルマ止めに苦労しないで済むギリギリまで追い込んだ」というそれも、走りの性能を優先したことの表れである。