大きな空力パーツは抵抗となり燃費の悪化を招く
世界ラリー選手権(WRC)に出場しているトヨタのヤリスなどは、超特大ともいえるリヤウイングを装着している。一方で、市販車では高性能車であってもリヤウイングやスポイラーが控えめになってきている。その理由は、燃費規制の強化による。
EUでは、2021年から施行されるCO2排出規制で、1km走行するに際してCO2の排出量を95gにしなければならなくなる。燃費で表すと、およそ24km/Lだ。この規制は、各自動車メーカーで販売されるすべての新車の平均値(CAFE)での達成が求められるので、個別の車種では多く排出するクルマも認められる。とはいえ、その分、より燃費の良いクルマを販売しなければならなくなるので、いずれの新車も燃費向上に積極的に取り組まざるをえない。
またカタログ燃費値と実用燃費値の乖離(かいり)が取り沙汰され、日本でも今年の10月から従来のJC08に変えてWLTCのモード燃費を示さなければならない。その結果、JC08に比べ燃費性能が悪く表示されるようになるため、いっそうの燃費向上が新車開発では求められる。ことにWLTCでの総合評価とともに、高速走行時の燃費もWLTCでは個別に表示されるので、高速走行における空力部品の影響を無視するわけにはいかない。
大きなリヤウイングは、強いダウンフォースを発生しタイヤのグリップを向上させるが、同時に空気抵抗を増大させる。それでも、タイヤのグリップが上がることでカーブを曲がる速度を高められることから、燃費を度外視した大馬力のパワーユニットを用いれば、速度を上げることができる。
燃費向上を前提とした動きは、空力に止まらない。たとえばメルセデス・ベンツのAMG53は、新世代の高性能車と位置付けられ、先にS450で採用された直列6気筒ガソリンエンジン+ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター:モーター機能付交流発電機)を基に高性能化されている。その加速は、猛然という従来のAMGらしさから、より洗練された速さへの転換を印象付けた。
そのAMG53も、大きなリヤスポイラーを取り付けてはいない。トランクリッド後端に、わずかばかりのスポイラーを装着するのみだ。
近年は、コンピュータシミュレーションの発達により、適度なダウンフォースを得るためには、必ずしも車体の上面だけではなく、車体側面や床下の空気の流れを制御することにより、車体全体として揚力ゼロを目指す空力開発が行われている。それらは、プロトタイプレーシングカーやGTカーなどによるサーキットレースの世界で効果が確認され、やがて市販量産車へも適用されるようになった。最近のクルマの車体前後の側面が造形的に平らな形状となったり、車体後端のリヤバンパー下がアップスィープ形状となったりしているのはそのためだ。床下へきれいな空気を流すため、フロントのチンスポイラーさえ控えめとなっている。
巨大なリヤウイングは、もはや20世紀型、前時代的な高性能車の象徴という過去の姿となりつつあると言えるだろう。