主なターゲットは中型セダンなどGT車両
横浜ゴムからミドルクラスセダンをメインターゲットに新開発された「BluEarth(ブルーアース)」シリーズの最新作として「GT AE51」がラインアップに加わった。商品名となった「GT」は「グランドツーリング」を意味していて長距離を快適かつ安全に移動することを追求しながらウエットグリップや低燃費性能なども最高グレードを獲得しているという。
さっそく実車に装着してテスト走行する機会を得たのでリポートしてみたい。まず装着されていたのはレガシィB4だ。GT AE51がメインターゲットにしているC、D、Eセグメントのスポーティセダン群の中核に存在するモデル。B4はとくにハンドリングや質感面で世界から高く評価されベンチマークとなる存在だ。
装着されているのは純正と同じ225/50R17インチ仕様。まずは停止状態でステアリングを左右目一杯に切り込む据え切り操作で感触を確かめてみる。電動パワーアシスト車の場合、どんなタイヤを装着しても同じような操舵感にアジャストされタイヤの特性を感知しにくいものだが、GT AE51はタイヤの接地面が転舵により捩れていく感触が伝わってきた。パワーステアリングのアシストが想定している以上の接地圧が掛かっていると、このようにやや操舵が重く感じるものだが、翻ってみれば標準装着タイヤより有効接地面積が大きく面圧も強く、グリップが高まっていることの現れでもある。
まるでハイグリップタイヤを装着されているかのような転舵フィールから高いグリップ力が予測できたが、それは転がり抵抗の増大につながらないのだろうか。早速Dレンジにシフトして走り始めた。すると今度はたいしてアクセルを踏み込んでいないのにもかかわらずクルマの方が前へ前へと押し進んでいく感覚を覚える。まるで強い追い風に押されているかのように軽々と走りだしていくのだ。極めて転がり抵抗の少ないタイヤでないとこれほど自然に前へと進む走行感は得られないものだ。据え切り時のグリップ感と相反する性能なだけに驚きを覚える。そのままワインディングへと進行。
長い直線部分では路面にタイヤが粘り着くような高いグリップ感で直進安定性が高く、路面の轍やうねりなどに対して影響を受けない安定性を示した。コーナーへのターンイン。まずはブレーキングで前荷重をかける。タイヤのたわみ変形はほとんど感じられず剛性感が高い。その結果車輛姿勢は安定しフラットな姿勢でコーナーへとアプローチできる。フラットな姿勢は4輪の接地を安定させているのでグリップの前後バランスが良く、速いスピードを保てる。直線区間とコーナーをひとつふたつ抜けたところでGT AE51の類い稀な好特性が発揮されていることが感じ取れたことになる。
説明どおりのウエット性能ならまさに理想のタイヤの誕生だろう
この好特性の秘密をタイヤ企画本部・製品企画1グループシーダーの小畑恒平氏にお伺いすることにした。まずブルーアースは、ヨコハマタイヤのランアップにおいてハイパフォーマンス系のアドバンシリーズとスタンダード系ECOSシリーズの中間に位置するブルーアースシリーズとして2010年に発売され「環境と人に優しい」をコンセプトに年々進化させているという。
そのなかで2012年に、国内向けとして最高のウエットグレードを獲得したA(エース)が登場。また最高の低燃費グレードであるAAA(トリプルA)をAE01Fで2014年に達成させている。今回のGT AE51 はそうしたモデルをベースに市場ヒアリングを丁寧に行い、「ブレーキの利き」、「燃費」、「直進走行性」という3大要素に着目し開発を進められた。そして従来モデルが抱えていたコンパクトカー向け低転がりタイヤのイメージを払拭し、中・大型セダンにもマッチしうる「剛」のイメージを強めプレミアム性も与えて商品化を実現しているのだ。
訴求ポイントは以下の5点だという。
① グランドツーリングに相応しい高品質な走行性能
② 安全:ウェット最高性能
③ 一段の低燃費化
④ 満足度の高い外観
⑤ OE(純正採用)されるエビデンス、確実なリピート
これらを実現するための技術的なアプローチについてはタイヤ第一設計部グループリーダー・池上哲生氏に話を伺った。①のグランドツーリングに相応しい「操縦安定性」の実現にあたり、GT専用のトレッドパターンを設計。「グランドツーリングデザイン」と命名している。②では全サイズにおいてウエット最高グレード「a」を達成。新混合技術を採用しシリカ分散性を向上させたGT専用コンパウンドを開発している。③の低燃費に関しては「AA」の達成を目指し「歪み低減プロファイル」の採用と細部までチューニングを煮詰めたGT専用構造を取り入れることで対応している。
これらの特徴はまずトレッドパターンに顕著に現れていて、3本の高剛性リブがトレッド中央に配され高速直進性を確保。左右非対称デザインのトレッドパターンはイン側はブロック剛性を柔軟にして乗り心地を高め、アウト側では非貫通のラグ溝を採用して高剛性とすることで力強い操縦性に仕上げている。
タイヤ断面でみるとトレッドに2層のコンパウンドを配し、サイドウォールには低燃費サイドゴム&リムクッションゴムを取り入れるなど高度な手法を講じている。また歪み低減プロファイルというタイヤ断面形状を用いたことで操舵、転舵時にもタイヤの接地面での滑りが少なく均一に荷重が加わり安定したグリップを発揮する。さらに横浜ゴムが近年得意としているダブルシリカと新混合技術「A.R.Tミキシング」によりミクロの単位で路面との接地面積が拡大し路面追従性も高まりウェット性能が大幅に高まっている。
これらの技術的アプローチ、開発コンセプトのほぼすべてが試乗した瞬間からフィードバックがあり体感できるレベルにあったことが驚きだ。これほど剛性感、グリップ感そして質感が高く、今回は試せなかったがウエット性能も燃費性能も最高レベルであるとすればまさに望まれていたタイヤが登場した、といえるのだ。
試乗ではGT AE51を装着した欧州車のVWゴルフも試してみた。ゴルフにおいても据え切り時の手応え、直進安定性、転がり感のスムースさは同様に発揮され好感触を得られた。
ただグリップ力や高速旋回時にはタイヤの剛性が勝ってしまい、サスペンションを強化したいと思う面もある。こうした面はレガシィB4でも感じられたので、より足まわりのしっかりした欧州車のアウディA4やA6、メルセデス・ベンツEクラスなどの方が現状好マッチングしていそうだ。GT AE51を履きこなせることがプレミアムスポーツセダンの指標になったといえるかもしれない。それほどBluEarth-GT AE51は高い完成度を示していた。