走りのベンチマークはポルシェ911か
BMWから新型8シリーズとZ4の国際試乗会の案内がきた。早速スケジュールを調整して、ポルトガルに乗り込んだのだ。現地一泊二日で二台のニューモデルを試乗するのでちょっと慌ただしいが、BMWの最新のテクノロジーに初乗りできるので、期待に胸を膨らませて機上の人となったのである。
空港からいきなりエストリル・サーキットに向かった。眠さが吹き飛ぶほどのパフォーマンスのBMWをテストする。このサーキットは最近はBMWだけでなく、ポルシェもよく使うサーキットだ。昔はF1が開催された有名なサーキットであるし、セナがポルシェのターボで優勝したコースでもある。最近はスーパースポーツの、「マクラーレン・セナ(800馬力)」で走ったことがあったが、古いサーキットなので、適度に路面は荒れているし、長いストレートと複合コーナーが特徴だ。しかもエスケープゾーンはない。圧巻はタンブレロを呼ばれる最終コーナーで、大きな横Gが長く続く難しいコーナーだ。F1のステアリングを握るセナは、誰よりもこのコーナーを速く走ったことをイメージしながらエストリルに挑んだ。
ところで、スポーツカーのZ4をサーキットで走らせるのかと思ったが、じつはこのコースは、高級クーペの8シリーズのために用意されていたのだった。なぜ? と思った。高級クーペでサーキットを走っても平気なのかと心配になったが、じつは新型8シリーズ誕生の秘話を聞くと納得した。
BMWはずっと昔からツーリングカーレースの常勝軍団として、ライバルからは恐れられてきた。だが、最近のモータースポーツ活動はパッとしない。SUVやディーゼルを売りすぎた後遺症なのかもしれない。昔はM3(4気筒2.5リッター自然吸気)がグループAのレースで活躍した。私も何度かM3の餌食になったことがあった。カミソリのようなハンドリングにBMWの速さの秘訣が存在していた。
グループAからGTカーのレースにシフトすると、マシンはより大きく幅の広いシャシーが必要となった。最近までBMWはM6のレースカーでFIA・GT3を戦ってきたが、トレッドをより広くする意味もあり、今年からは8シリーズでGTレースに挑んでいる。
新たにラインアップされた8シリーズは今年のル・マン24時間レースで発表され、今年の10月の富士スピードウェイで開催されたWEC(FIA世界耐久先取権)では見事にクラス2位を獲得している。このように新型8シリーズが単なる高級クーペではないことが理解できたし、モータースポーツと深い関係を持って誕生したのである。
前置きが長くなったが、サーキットとオープンロードのインプレをリポートするが、テストした8シリーズは「M850i xDrive」。本格的なMモデルではないが、ノーマルのBMWとMモデルの間に位置するMパフォーマンスがM850i。しかも電子制御のxDrive(AWD)を備えている。
V8エンジンの高級クーペのセグメントでは、メルセデス・ベンツSクーペやレクサスLCが頭に浮かぶが、開発エンジニアの言葉の端々にはポルシェ911をベンチマークとしたことを感じさせる発言がある。その証拠に0-100Km/h加速で4秒を切る俊足ぶりは911カレラ4に近いパフォーマンスだ。
エンジンはホットVと呼ばれるV8ターボで、Vバンク内にターボを搭載する。パワーは530馬力で750N・mを発生するが、Vバンク内のターボは向き合うシリンダーの排気管を集合させ、排気干渉をなくすスグレモノだ。したがって、カタログ数値では語れないほど、スロットルレスポンスがシャープで気持ちよくエンジンが吹き上がる。まるで自然吸気のようなスムースな回り方をするのだ。750N・mというビッグトルクはMデファレンシャルを経由して20インチのタイヤに伝わるが、前後トルク配分が最適化されるインテリジェントなAWDシステムによって、4つのタイヤに分散される。
BMWのV8はバンク内にターボを搭載するが、排気管の集合がユニークなので、排気干渉が少ないエンジンだ。BMWのオンリーワンの技術である。つまり速いだけでなく、スロットルレスポンスがシャープでドライバーの右足に鋭く反応するから、楽しいのだ。数ラップの走りはほとんど全開。まるでM8に乗っているような錯覚に陥るほど、ハンドリングはダイナミックだった。
サーキットを後にして、リスボン郊外のワインディングを楽しむ。ハイテンポな音楽を聞きながら、ユーラシア大陸の西の外れをドライブするなんて、とても贅沢な時間がすぎる。狭い道でも、取りまわしが良いので苦労はない。こんな日はオープンで走りたいと思ったが、新型8シリーズには「カブリオレ」も用意されている。待望のM8も来年には市販されそうだ。
新型8シリーズはエレガントであるものの、サーキットの熱い鼓動も聞こえてくる。単なる高級クーペではないことがわかった試乗会だった。