急速充電器は「公衆トイレのようなもの」
かつて充電器設置に尽力した電力会社の人は、「急速充電器は公衆トイレのようなものだ」と評した。まさにそのとおりであり、自宅や出先にトイレがあれば、あえて駅や公園などの公衆トイレを使わなくても多くの場合用が足りる。それでも万一というとき、公衆トイレがあれば安心だ。急速充電器という存在も、それに似ていると言ったのである。
ところが、EVに馴染みのない事業者や行政は、ガソリンスタンドと同様に急速充電器を重視し、またマスメディアもEVの本質をとらえることなく急速充電器が足りないとの報道を繰り返した。それによって、急速充電器の設置は全国約7000カ所に達したものの、今度は電動車両が増えれば複数ないと問題だと言い出した。
実際、現状ではプラグインハイブリッド車(PHV)の普及もあって、急速充電器での充電待ちが増えている。だがそれも、そもそもPHVは、モーター走行後にバッテリーの電気がなくなったらハイブリッド走行やエンジンで発電すればいいのだ。そのためのPHVであるにもかかわらず、急速充電器で充電するという本末転倒な使い方が広まってしまった。それが問題を拡大している。
また、EV購入においても、集合住宅(マンションなど)では、200Vの充電コンセント設置ひとつに管理組合の合意が必要で、設置できない事態が起きている。それでは、EVへの充電の基本である自宅での充電ができなくなってしまう。したがって、公共の急速充電器を利用しなければならないという問題の拡大が生じている。
マスメディアの責任は大きい。なおかつ、消費者のPHVに対する理解不足や、他人への配慮といった社会性の欠如が問題を解決できなくしている。
単に急速充電器を増やす政策を訴えるのではなく、まず、自宅で誰もがEVやPHVに充電できる社会を作ることが先決である。次に、出先、すなわち企業や飲食店や病院や大規模商業施設など、人が集まる場所への200Vのコンセント設置が進まなければ、充電問題は解決しないのである。
人が立ち寄る先に普通充電が整備されれば集客につながるし、利用者は燃料代が安くなり移動しやすくなり、そして環境にも良い社会が生まれることになる。