日本での当たり前にありがたみを感じる結果に
ホーチミン市はベトナム南部最大の都市。かつてはフランス統治下であったので、街は“1区、2区”とパリのように区分されており、フランスを思わせるような建物も市内では見ることができる。
そんなフランス情緒を街並みから感じられるホーチミン市だが、道路だけを見ると、そんな悠長なことは言っていられない。まず大きな交差点でも信号機の設置が極端に少ないのである。そのような道路環境では歩行者が道路を横断するのは、まさに“命がけ”である。ホーチミン市内を走る二輪車や四輪車はかなり多いのだが、完全停止するような激しい交通渋滞はまず発生せず、比較的低い速度でダラダラと車列が途切れることなく続くのである。このため道路を横断する時は、運良く車列が途切れることがない限りは、車列の隙間を縫って横断することとなる。
四輪車がメインならば、それでも慣れれば渡りやすいのだが、二輪車がメインとなるので隙間を見極めるのにはかなり時間がかかってしまった。
横断歩道手前で、車列の様子をうかがい、自分の感覚で「この隙間なら渡れる」と判断したら、ゆっくりと車道に足を入れる。あとは慌てて走ることなく、手のひらをライダーやドライバーに見せながら、斜め下に腕を伸ばし、間合いを見ながら歩行速度などを調整して道路を渡り切ることとなる。歩行者が道路を横断していても減速はしてくれているようだが、まず停車はしてくれない。スマホを見ながら道路を横断することなどは、短期滞在の外国人にはまず不可能であろう。歩行者信号が設置されている交差点もあるが、それでも二輪車を中心に赤信号を無視して交差点に進入してくるので気が抜けない。
間合いが読み切れず、結構な時間道路わきにたたずんでいると、バイクタクシーの“おっちゃん”が、「どこ行くんだい」などと声をかけてきて、これがまた、かなりウザかった。
地元民は慣れたもので、スイスイと車道に入り、さっさと道路を横断していく。そこで地元民がちょうど道路を横断する時には、それについていくと、割と簡単に道路を横断することができた。
日本風にいえば、片側四車線ぐらいの道路でも、日中は信号機が作動しない横断歩道ばかり。観光で訪れる欧米の白人のご一行は、その様子にしばし茫然としていた。
帰国して、近所のスーパーへ買い物に行くとき、歩行者信号が青になって道路を横断していると、左折車両が横断を終えるまで待っていた。日本では当たり前のこの光景だが、これがどんなに歩行者にとってありがたいことなのか、ベトナムのおかげで痛感することができた。