型式からトヨタのクルマづくりへの姿勢の変化がうかがえる
クルマの名前を呼ぶ際には、大部分の人が言う車名(クラウンのような俗称)に加え、型式(現行日産GT-RならR35)というものがある。型式はクルマやバイク以外の商品で言えば品番に近いもので、民生品で挙げるならカメラ(キヤノンの一眼レフカメラの○○Dなど)がわかりやすいだろうか。
型式はクルマの開発や整備の現場、またクルマ好きの話題に挙がることのある歴代モデルの多い車種で「何代目□□」とか「何年くらいの××」などと言うのが面倒だったり、わからなくなってしまうケースでよく使われる。型式はアルファベット+数字というのがほとんどで、無機質にも見えるが、それだけにクルマ好きの会話であれば「通っぽく」聞こえるもの。そんなクルマの型式を見ていると、「おお」とか「なるほど」と思わされるものも希にある。いくつか例を挙げてみよう。
1)トヨタ86GRMN
現行トヨタ86のビックマイナーチェンジ前の前期型の終盤に100台限定で販売された86GRMNは、エンジン内部に始まり、ボディ補強や足まわり、空力、インテリアなど細部まで入念に手が加えられたモデル。内容を考えれば普通の86二台分となる648万円という価格も「決して高くない」と感じるほどの魅力がある。
その86GRMNの正式な型式は「GRMN86-FRSPORT」と、何とも直球に車名とクルマの性格を表したもの。86GRMNに通常の86とは違う新たな型式を与えたことにも強いメッセージ性を感じる。
2)レクサスLFA
2009年の東京モーターショーで登場したレクサスLFA。官能的なサウンドを奏でるV10エンジン+リヤにデファレンシャルと一体になったトランミッションを置くトランスアクスルレイアウトやカーボンボディなど、クルマに対する夢が詰まった究極のドライビングプレジャーを提供するスーパーカーだった。
そのLFAの型式は「LFA10」と、GRMN86と同様に直球なのに加え、“10”があるところには「LFA20=LFAⅡ、2代目があるのか?」という期待を自ずと抱いてしまう。
3)トヨタMIRAI
2014年に登場したMIRAIは、燃料電池車をリース販売などではなく自分のものとして買うことができる。水素ステーションというインフラはともかくとして、それ以外は何の不便もないどころか、非常に質の高いクルマとして誰もが普通に乗れることが魅力。MIRAIは日本の技術を世界にアピールできる1台と断言できる。
そのMIRAIの型式は「JPD10」。JPDの部分には筆者の想像を含むが、“JaPan Dream”の意味もあるように思う。水素社会の実現に向けた夢も感じられ、何とも頼もしいというか、温かい気持ちになる。
ここまで挙げた「想いを感じる型式」は、意外にもすべてトヨタ車である。お堅いイメージもあるが、最近の豊田章男社長の白いセンチュリーを含めたスポーツモデルのGR戦略やピックアップトラックのハイラックスの日本導入、クルマ自体の良化など、“楽しさや夢を与える自動車メーカー”になりつつあるトヨタ。その変化は型式にも表れているように感じる。