スポーティさと上質さの絶妙なバランスが光る
WRX S4のスポーツバージョン、WRX S4 STI Sportが登場した。目玉は専用開発のビルシュタインダンパーを使ったサスペンションキット。フロントストラットには、倒立式のダンプマチックIIというツインバルブダンパーが採用されており、組み合わされるスプリングもバネレートを若干上げ、減衰力とのバランスを整えている。
それから、もうひとつ操縦性にひと役買っているのが、クランプスティフナーという、ステアリングギヤボックスの取り付け剛性を高めるためのパーツ。
写真を見ると、これで本当に剛性が上がるの? と思えてくるようなパーツだが、STIが装着してくる補強パーツは、見た目にはさほど派手ではないが、不思議なくらい効果があるものばかり。もともとボディ剛性が高いスバル車の、それでも抑えきれない微細な動きを止めることで、シャキッとした、あるいはカチッとした操縦感覚を引き出している、ということなのだろう。
もちろん内外装にも専用装備が盛り込まれている。なかでもうれしいのはブラック/ボルドカラーの本革+ウルトラスエードのレカロ製シートが標準装備されていること。同じくブラック/ボルドーで統一された室内の雰囲気もシックでいい。
外装に派手なエアロパーツを用意していないところも、大人のスポーツセダンの雰囲気を上手に演出している。
試乗した印象も、クルマの動き全体に無駄な動きが抑えられていて、スポーティな乗り味満点。WRX STIに似たキュッと引き締まった緊張感がある。ただ、WRX STIと違うのは、引き締まってはいるけれど硬質ではなく、しなりやたわみを含んだ、しなやかさを持っていること。適度に張りのあるモノチューブダンパーならではの乗り味と、クランプスティフナーの効果なのか、カチッとしたステアリングの手応えが心地よい。
極ごく普通に走っているような場面でもハンドルを切り出すと、歯切れよくクルマが応答し、オンザレール感覚でスイーッと曲がってくれる。
例えばベースモデルのWRX S4 GT-Sと比較すると、このクルマも操縦性は決して悪くないが、感触としてダンパーの減衰感とかタイヤが転がっていく時の抵抗感みたいなものが若干感じられるのだが、STI Sportは、旋回時もバネの反発感の強さがダンパーの動きの渋さを打ち消して気持ちよく旋回してくれる。しかも、クルマの動きから緩さや遊びがきっちり詰めてあって、スッキリした乗り味がある。
エンジンもアクセルを踏み込むと、過給圧の上昇を待ち構えていたように、レスポンスよくターボが仕事をして急速にトルクを膨らませ、鋭い加速を見せてくれる。
足まわりが引き締められているためか、トラクションが路面にダイレクトに伝わる感触も心地いい。
本気の全開走行を行うとCVTのネガティブな部分が多少顔を出すが、そもそもこのクルマ、歯を食いしばって限界走行をするクルマではなく、7割かせいぜい8割くらいの性能をサラッと引き出しながらエレガントに、あるいはジェントルに走るのが似合う。
WRX S4 STI Sportは、単なるスポーツモデルではなく、大人の走り味と乗り味をちゃんと作り込んでおり、「クルマに乗る」のではなく「クルマを走らせる」ことで本当の楽しさが味わえる、熟成したスポーツセダンに仕上がっていると思う。