日本を代表する規模のトヨタとソフトバンクが協力して生まれるモノとは?

自動運転やライドシェアなど想像の範囲以外の価値を生む可能性

 2018年10月4日、『ソフトバンクとトヨタ自動車、新しいモビリティサービスの構築に向けて戦略的提携に合意し、共同出資会社を設立』という発表があった。2018年10月25日現在、時価総額の国内トップと3位の企業(ちなみに2位はNTTドコモ)が戦略的提携をするというのだから、そのインパクトは大きい。

 さらにソフトバンクというのはそもそも通信系企業ではなくIT系企業であり、そのグループ傘下には内外に様々なイノベーションを持つ会社を抱えている。通信大手と自動車会社の提携と聞くと、コネクテッドに関するものだと思ってしまいがちだし、実際に共同出資会社のMONET Technologies(モネ テクノロジーズ)はMaaS(Mobility-as-a-Service)事業を進めていくということだが、この範囲にとどまる提携と考えてはいけない。

 ソフトバンクグループ代表・孫正義さん、トヨタ自動車社長・豊田章男さんの両名が、提携を発表する共同記者会見に顔を出し、トークショーまで披露した。すなわち、一部事業での提携にとどまらず、お互いに協力しあうという姿勢を示したのだ。

 もちろん、ソフトバンクという単体企業でいえばAI分野(感情エンジン)についてホンダと共同研究を行なうなど幅広くネットワークを広げている。それはトヨタにしても同様で、それぞれがお互いをワン・ノブ・ゼムと考えているクールな部分もあるだろうが……。 

 そして、まったくの異業種であるソフトバンクとトヨタのシナジーに期待されるのは、誰もが予想できない何かを生み出すことだろう。先日、開催された東京モーターフェスのスペシャルトークショーにおいて、ふたたびステージ上で孫正義さんと顔を並べた豊田章男さんは、異業種が生み出す新しい価値について「水と油は混ざらないけれど、攪拌することでドレッシングが生まれる」と表現した。そのたとえ話を発展させれば、ドレッシング(酢と油)に卵と乳化剤を加えることでマヨネーズになるように新しい価値が生み出すことが、この協業には期待される。最高の酢を極めても、どんなに純度の高い油を生み出しても、そのままではドレッシングやマヨネーズにはならない。

 どんなにネットワークが発展しても、物理的な肉体がある限りは、人やモノが移動すること(モビリティやロジスティクス)はなくならない。どんなにリアルな情報が手に入るようになっても、実際に栄養を摂取することや肉体で体験することはできないからだ。つまり、人とモノの移動にはまだまだ可能性がある。

 協業することで必ずしも成功する事業が生まれるとは限らないが、絶対に単独では生み出せないものを現実にしていかないと、これからの時代を生き残れないという危機感が、ソフトバンクとトヨタの提携につながったといえる。逆にいえば、現時点で想像できるような事業(たとえばライドシェア)や製品(たとえば自動運転車)を生み出しただけでは、この戦略的提携の意味はない。ソフトバンクとトヨタの協業には、まだ見ぬ世界への扉を開く、そんな価値創出を期待したい。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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