広さと先進技術という新しい価値をもつクルマ
話題の新型レクサスESが日本に登場した。4月に北京モーターショーで初めて披露された新型ESは、人気が高く現地販売も好調にスタートしている。7代目となるESは新鮮な「たたずまい」で、これは美しいな、と思わせるデザインが好印象だった。そのESを日本でも秋に販売するというアナウンスがあって注目されていたが、いよいよ2018年10月24日、日本デビューである。
レクサスブランドのなかで、RXとESは世界的にはもっとも売れている車種ということを知っているだろうか。SUVブームの中、RXの人気はわかるが、ミディアムセダンのESについて「かつてのトヨタブランドのウインダムですよね」という人はクルマ通。日本ではこのクラスのプレミアムセダンは今一つ人気がなく、欧州車が目立っていた。そこに新型ESが勝負に出た。サイズから見るとメルセデス・ベンツのEクラス、BMWの5シリーズがお相手というわけである。
チーフエンジニアの榊原康裕さんに「なぜ今、日本での販売が難しいクラスのセダンを販売するのか?」という疑問をぶつけてみた。ESはFF(フロントエンジン、フロントドライブ)だが、FR(フロントエンジン、リヤドライブ)好きに根強い人気をもつ同クラスのGSとの関係はどうだろうか?
「GSの後継車ですか、と聞かれますが違います。GSも継続販売ですし、クルマの性格が異なります。IS、GS、LSに加えレクサスセダンの選択肢が増えた、という位置づけです。トラディショナルなグランドツーリングがGS、最新技術を取り入れた上質で広々したプレミアムセダンがESです」。
つい、GSのことが気になっていたが、それなら理解しやすい。
「今度のESは、企画の初めには日本のマーケットを意識していませんでした。世界でたくさん売れているクルマですから、グローバルに通用する最新の上質セダンという基本を進化させ、ダイナミクス性能も欲張りました。プラットフォームを新しくして、7代に渡るESの歴史の積み重ねもあり、本当に良いクルマになったと思っています。スッキリした味のあるハンドリングですよ。だから厳しく性能を評価される日本でも価値を認めてもらえると期待しています」。
このクラスの新しいプラットフォームと言えば、クラウンやカムリで高い走りの評価を得ているTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)。それと共通ですね?
「じつは私は新型カムリ開発に関わっていまして、そしてTNGAプラットフォームの良さを実際に体感していました。カムリ開発の目途が付いたところで新型ESに行け、となりましてワクワクしました。レクサスではTNGAではなくGA-Kと呼びますが、この新しいプラットフォームを使うと面白いことができるぞ、思ったわけです。実際にはカムリよりホイールが長く、アッパー部(クルマのボディ)は全部違いますが、基本、基礎がいいというのは素晴らしい。剛性も高いし、軽量化もできた。快適性、室内とトランクの広さ、静粛性、走行性能、予防安全性能など大きく進化していますよ。だから日本でも勝負できます」。
クルマ好きに気になる話だが、少し突っ込んで聞いてみた。
「新型カムリも良くできたクルマだと自負していますが、ESは少しホイールベースを延ばし大きくしたこともあって、実際に開発を進めると欲がでてきました。専門的になりますが構造用の接着剤を変えたり、LSW(レーザースクリュー・ウエルディング)という溶接を採用したり、サスペンションとボディのブレースを変えたりと、上質さと走りを追求するのに、かなり色々取り組んでいます。
今度の注目技術は、後方確認用のミラーにもある。トヨタ車を含め世界で初めて市販用に開発されたディジタルアウターミラーは日本仕様だけだという。その真意は?
「ミラーは安全の問題から、法規上でのレギュレーションがきちんと決まっています。このタイプだと今のところ日本と欧州しか受け入れられない。そこでまずは日本からスタートしてみようとなりました」。
バックミラーについては、見えやすいか、雨のときどうか、デザインとしてはどうか、空気抵抗はと考えると、鏡を使う機械的なミラーでは限界がある。クルマの周辺監視用にはカメラで電子的に見る方式が広まっているが、ボディサイドにあるバックミラーの電子化はなかなか大変そうだ。
「電子式ミラーだとデザインの自由度があります。モニターの見やすさなど、人間工学的なチューニングをずいぶんやりました。その結果、機械式にはできない視認性の良さを確保できまました」。
実際に乗ってみると、最初は違和感を感じるものの、きわめて見やすい。後方のいたる所で死角ができないことも大きなメリットだ。
このクラスのプレミアムセダンの話題になると決まって「上質な、走りや意のまま走りはFRが優れている」という意見が根強い。だが「ESはFF」だといわずに「クルマ通」に乗ってもらっても「これはクセのある走り、FFでしょ」なんて意見は絶対に出ないだろう。コーナリングでのFFのクセと言われるステアリングへの不快な振動、あのトルクステアはほとんど消されているらしい。重心高を下げサスペンション設計で最適化した最新のチューニング技術は大きく進化しているのだ。
「乗り心地に振るとハンドリングがダメになる、言われますが、そこの両立にこだわりました。世界的にはこれまでもESの評価は高かったのですが、日本のクルマ好きのお客さんは手厳しい。意識して徹底してチューニングしています。スッキリさの追求は試行錯誤しました。ベアリングの摩擦はとか、ジョイントはどうなる、などと数字も全部チェックして、やり直しも何度もやっています。その結果、奥深いところまで仕上げることができました」。
レクサスでは走りの味を決める実験部隊のトップに「匠(たくみ)」と呼ばれる動力性能評価のプロが存在する。新型には匠のこだわりが見て取れるのだ。
いまどきクルマ選びに「FRか」ということだけにこだわることはない。FFだとスペース・ユティリティは有利。巨大な室内空間とトランクスペースを生み出している。広さで見ると、ひとクラス上の新型LSより大きい。走りも磨かれている。だからこそレクサスは、IS、GS、LSがあるなかに、ESを投入するのだ。
スポーティさが売り物の2.5リッター・ハイブリッドFスポーツも「気持ちの良い、力強い走り」を実現している。メルセデスやBMW、アウディのFRモデルが人気の、難しい日本マーケットで「絶対負けないぞ」と勝負に出た新型プレミアムセダンES。ぜひ試乗して実力を確かめてみよう。
LEXUS ES チーフエンジニア 榊原康裕
1988年入社、カローラなどのボディシェル設計を担当。製品企画部に異動後7代目カムリの開発主査、8代目カムリでは開発初期から車輌コンセプトづくりに携わる。7代目ESの開発主査を経てチーフエンジニアに就任。