市販車ベースのレーシングカーではペダルを大きくすることもある
多くの乗用車でAT車とMT車のペダルを比べると、AT車にクラッチペダルがないのは当然として、ブレーキペダルのサイズが異なることは当たり前の事実となっている。通常、AT車のブレーキペダルのほうが倍以上のサイズで大きい。トラックのようなキャビンレイアウトではステアリングシャフトの関係から、トランスミッションに関わらずブレーキペダルのサイズは同一といったクルマもあるのだが……。
それはさておき、多くのAT車においてブレーキペダルを大きくしているのは、そのほうが踏みやすいからであるが、初期のAT車から大きかったという話もあり、なぜ大きくしたのかという理由は歴史の中で忘れられてしまったようだ。しかし、その理由を読み解くヒントとなるのが、市販車をベースとしたラリーやレースマシンの定番モディファイにある。
そうしたレーシングマシンのコクピットを眺めると、もちろんMT車をベースに改造しているのだが、かなりの確率でブレーキペダルが大きくなっている上、滑り止め加工がされていることに気付く。モータースポーツの実際では状況によって左足ブレーキを使うので、ペダルを大きくしておくのは、そうしたテクニックを利用しやすくするためという部分もあるが、ブレーキペダルを確実に踏むことを最優先しているというのが本質だろう。
アクセルやクラッチを踏み損ねても大きなクラッシュにつながることは少ないが、ブレーキから足が離れてしまうと、即コースアウト&クラッシュとなってしまうからだ。ただし、ブレーキペダルを大きくしたレーシングマシンでは、ペダル間のスペースが狭く、タイトに締め上げたレーシングシューズでなければ、クラッチペダルとブレーキペダルを同時に踏んでしまいそうにも見える。
つまり、さまざまなシューズで運転するドライバーがいることを考慮した市販車の場合、クラッチペダルとブレーキペダルを同時に踏んでしまわないように、ある程度のクリアランスをあけておく必要がある。つまり、MT車においてもブレーキペダルは大きいほうがいいけれど、クラッチペダルとの干渉を避けるために市販車では小さくせざるを得ないと理解しておくのが本質に近いといえるだろう。
ペダル間のクリアランスといえば、アクセルとブレーキのペダル踏み間違えの要因としても指摘されることがある。たとえば、後退時や料金支払いなどで体をひねったときに右足もひらいてしまい、ブレーキペダルを踏んでいるつもりで足先がアクセルペダルを踏んでしまっているケースもあるという。そのことを考えると、AT車においては、アクセルペダルを小さくするなどして、ブレーキペダルとの間隔を大きくするほうが、安全につながるといえるのかもしれない。もちろん、アクセル操作がしづらくなってしまっては本末転倒といえるのだが……。