一般には語られない難しすぎる操縦性
今や500馬力は当たり前。700馬力や1000馬力超なんていう超高出力を発揮するモンスターも多く存在する時代だ。果たしてこんなモンスターマシンが日常的に必要なのか? と問われれば答えは「No」だ。最高速度が100km/hに制限される国内はもちろんだが、速度無制限区間のある独・アウトバーンであってもこれほどのハイパワーは必要ないだろう。
それならモンスターカーが思い切り羽を伸ばせる場所はどこにあるのか。それはもうサーキットしかない。一般的にはたとえ何千万、数億円するクルマであってもサーキットで試乗し、性能確認してから買えるようなことはない。つまりほとんどの人は本当のクルマの性能を知ることなく購入し、またそれを最大に発揮させることもない。
そうした超高性能を謳うスーパーカーにこれまで何度も試乗テストしてきたが、それらが一様に素晴らしい操縦性を持っていたかというと、じつは運転が難しく、とてもハイパワーを扱い切れないクルマのほうが多かった。今回は一般的には超高性能車と思われていても、じつは運転が難しくプロドライバーでも乗りこなせないスーパーカーを3台ご紹介しよう。
1)フェラーリF50
フルカーボンモノコックフレームに最大出力520馬力を誇るV型12気筒自然吸気エンジンをミドシップに搭載し後輪2輪を駆動する。ワイド&ローな車体に大きなリヤウイングを備え、見た目のインパクトや存在感は圧倒的だった。フェラーリのネームバリューは絶大で、その操縦性を疑う者など皆無だったろう。
だが、実際にサーキットで走らせてみると酷いアンダーステアに終止し、とても自由自在なラインコントロール性があるとは言い難い。理由はこうしたカテゴリーの車両がオーバーステアで事故を誘発したら社会的に非難を受けることを恐れ、いかなる状況でもアンダーステアにしかならないようなセットアップしていることにあった。
それでもタイヤのグリップ限界域ではアンダー姿勢に制御しきれないことも起こりえる。そうした曲面ではスナップオーバーステアを示し、ヨーモーメントを発散させたあと、アンダーステアに戻るという難儀な特性だった。
誰もが手に入れることができない特別なこのフェラーリを購入したものの、サーキットを走らせて扱いにくさを感じたオーナーも多かったはずだ。そして自分のドライビングスキルが足りないのか、クルマが乗りにくいのか判別つかず悶々としただろう。中にはプロドライバーに試乗インプレを依頼し、性能の判別をつけてほしいというケースもあり、プロからはネガティブな意見がフィードバックされがっかりされる事もある。
F50が扱いにくい最大のポイントは装着タイヤにある。もしレーシングスリックを装着してサーキットを走れば、ライントレース性とコーナリング限界スピードは高まりラップタイムが短縮されるのは間違いない。丁度レースカーに市販ラジアルタイヤを装着して走らせているようなバランスの悪さがF50にはあったのだ。
2)ポルシェ・カレラGT
カレラGTもF50と同じくカーボンモノコックボディを採用。5.7リッター/612馬力を発生するV型10気筒ユニットを、ミッドシップにマウントし後輪2輪で駆動する。
その存在を知ったときは心底興奮して期待を寄せていた。何しろボクは、グループCのポルシェ962Cでル・マン24時間や国内の耐久レースを走らせ、その性能とハンドリングに感銘を受けていたし、市販911カレラの性能、GT1カテゴリー車の完成度の高さなどを知っていたので、カレラGTに対する期待も自然と高まっていたわけだ。いよいよ試乗の機会を得てサーキットへ駆り出すと、だがしかし、その期待に反する挙動に言葉を失った。
V10エンジンはスロットルレスポンスも鋭く最高なのだが、後輪は簡単にスリップし、トラクションコントロールなしでは走らせられない。極めて剛性の高いカーボンコンポジッドのシャシーとラジアルタイヤの剛性バランスが悪く、限界を感じ取りにくいのはF50と同じだった。やはり市販車である以上、一般道での性能基準を満たす必要があり、F50同様にアンダーステアが強くコントロールの自由度が感じられなかった。
カレラGTもまたスリックタイヤを装着し、バランスをリセッティングすれば素晴らしいクルマになる資質を持たされていたが、市販状態のままではとても扱いにくい数少ないポルシェとなってしまっていた。
カレラGTが開発中、独・ニュルブルクリンクでテスト中にW・ロールが大クラッシュを演じた場面に遭遇した。性能に匹敵するラップタイムを記録するために果敢なアタックをしていたようだが、プランツガルテンⅠ(Pflanzgarten Ⅰ)でコントロールを失い大クラッシュ。車体は粉々になり終日かけてスタッフが散らばった部品をひとつ残らず拾い集めていた。原因究明のためだろう。のちにカレラGTのハンドリングを知り、W・ロールに同情する気持ちになった。