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スバル車はいかにして海を渡るのか? 自動車運搬船の内部に潜入した!

スバル車はいかにして海を渡るのか? 自動車運搬船の内部に潜入した!

接触していると思うほどの距離でフォレスターが並ぶ!

 SUBARU(スバル)の2018年3月期(2017年4月-2018年3月)の自動車販売台数は106万7000台であったが、なんとその8割にあたる90万3000台が海外で販売されたのだという。

 海外市場での強さを誇るSUBARU。ではクルマはどのようにして海外に渡るのか。これは現地生産と日本から船便で輸出されるという2つの手段にわかれる。

 クルマの船での輸出の様子は最近トランプ政権が世間を賑わせていることもあり、ニュースなどで目にしたことがある人も多いだろう。自動車関税が引き上げられたら日本の自動車メーカーへの影響はいかに? 再来月の中間選挙の行方が気になるところ。

 それはさておき、クルマは船にどのような手順で積み込まれていくのか、一度にどれくらいの台数のクルマを運ぶのか、その真相を詳細に知る人は意外と少ないのではないだろうか。

 じつは今回、スバル車の船積み現場を取材することができたのでリポートしたい。

 見学したのは神奈川県川崎市にある東扇島物流センター。スバル車の積み出し港は関東地域に5カ所存在し、その中のひとつだ。この港から出航する船は北米へと向かう。この物流センターが設立されたのは1983年。ちなみにこの時スバルはアメリカで「INEXPENSIVE. AND BUILT TO STAY THAT WAY.」というキャッチフレーズの元、価格が安いのみならず、耐久性にも優れ、維持費もかからないことを売りとしていた。それが功を奏し、アメリカの顧客満足度調査(J.D.パワー)で1983年、1984年と2年連続、メルセデス・ベンツに次ぐ第2位を獲得したのだという。この頃レオーネや初代アルシオーネが多くこの港から海を渡っていたのだとか。なるほどこの時代のスバル車もここから輸送されていたのかと思うと、スバリストの私としては胸がときめく。

 さて港に到着すると船はまだ到着していないようだ……というのは私の勘違いで、目の前には「ハーキュレス・リーダー」という全長199.94m、幅32.26m、高さ44.98mの巨大な船が待ち構えていた。大きすぎて船だとは気づかず、何かの建物かと思ってしまった程だ。貨物室部分は12層にわかれており、4,900台のクルマが積載可能だという。

 岸壁にはスバル車がところ狭しと並べられ、順にスロープを渡って乗船していく。

 さて船の中はどうなっているのだろうか。はやる気持ちを抑えきれず、スバル車の後を追いかけるようにしていざ船内に潜入!

 船に乗り込むと驚きの光景が広がっていた。大量のフォレスターが接触せんばかりの近さで整然と並べられていたのだ。

 そんな景色に呆気にとられている間も、新たなフォレスターが現れては瞬く間に並べられていく。その動きにはわずかな迷いもなく、まるでオートメーションの機械のよう。だが運転しているのは確かに人間のドライバーだ。話によると、前後のバンパーtoバンパーは30cm、畳んだ状態のミラーtoミラーは10cmと決められているのだという。

 なんとミラーは始めから畳んだままの状態で駐車しているではないか。なんたる神業!

 駐車後はラッシングと呼ばれ、フロアに開けられた穴と車体をストラップのようなものでしっかりと固定する。船が波で揺れた際にクルマ同士が接触するのを防ぐためだ。

 スピードと正確さが求められるこの作業を手際よくこなす作業員の動きには心底感動させられた。技術者たちにより想いを込めて作られたスバル車は、輸送の際も匠の技によって安全に送り出されていたのだ。

 そして今回、貨物エリアだけでなく船全体を見学することができたので紹介したい。

総排気量650リッターという想像もつかない巨大エンジン

 まず足を踏み入れたのはエンジン室。巨大だ……。これだけ大きな船の動力源なだけあって、当たり前ではあるがとにかく大きい。

 ボア(ピストンの直径)は60cm、ストロークは230cm、バルブにいたってはもはやトロンボーンかと思った程だ。排気量は約649.98リッターで、2リッターのクルマで換算するとじつに325台分。これによって21,128馬力を発生しているとのこと。このメインエンジンにプロペラが繋がっていて、船を前へと進めているのだ。

 初めて見る船の“心臓”に釘付けになってしまった私。なるほど、このシリンダーの中に燃料を噴射して爆発させ、その力でピストンが往復してこの船の動力になるのか。めちゃくちゃロングストロークだなぁ……。メカに弱い私でも想像を巡らせてしまう程大きく、且つわかりやすい船のエンジン。洋上でもしものことがあった時は乗組員だけで対処するというのだから、構造がわかりやすいことも重要なのだろう。

 続いて操舵室へ。操舵輪も海賊のマンガに出てくるような大きなものを思い浮かべたが、そこはさすがに現代の船。クルマのステアリングと同じぐらいの大きさの操舵輪が付いていた。しかしこの船にはオートパイロット機能がついており、ほとんど自動運転で航行するというから驚きだ。それでも洋上に船が多く、細かい操作で避けなければいけない時や、狭路などでは操舵手が舵をとるのだそうだ。

 そういえば操舵室にきてからなにやら賑やか。ここにきて見学者が倍ぐらいに増えたのか? と思ったら違った。船には通信機がついており、他の船とコミュニケーションをとっていたのだ。これは船同士の衝突を防ぐことに非常に有効なのだそう。また衛星通信を使ったインターネットも完備しており、陸から気象情報などを入手したり、乗組員が家族と連絡を取ることも可能になったとのこと。以前は紙だったという海図も、大きなモニターに実に見やすく映し出されていた。近年クルマは著しい進化を遂げているが、船もまた進化していることを知った。

 一方でアナログメーターや手動の発光信号、信号旗なども見ることができた。これらは今でも普通に使っているとのこと。アナログとデジタルが共存することで安全に航行できるこの船には、マニュアル車を愛車に持つ私だからか、なんだか親近感が湧いてしまった。

 さて、今回新型フォレスターの公道試乗会にあわせて開催された船積み見学会。スバル車がたくさんの人の手によって海を渡り、これから海外のファンの元に届くのだと思うと、思わず胸が熱くなるのはスバリストゆえの性!? 船内のクルマたちに「海外でもスバルの“安心と愉しさ”でたくさんの人を幸せにしてね」と心の中で語りかけ、船をあとにした。

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