新型トヨタ・センチュリーのキーマンが語る3代目開発のこだわりとは (2/2ページ)

後席の方にごくわずかな違和感さえ感じさせてはいけない

 こうした高度な技能を、若い世代に伝承することも、センチュリーというクルマの大きな役割のひとつ。先代センチュリーは2017年1月に生産を終了しているが、それから新型の生産がスタートするまでの約1年半、ベテランたちは若い作業員とペアを組み、マンツーマンによる技能伝承を行ったという。

 今回のフルモデルチェンジを「式年遷宮」に例える声がトヨタ社内ではあったという。式年遷宮とは、日本を代表する神社である伊勢神宮が、20年に一度、社殿や神宝を新しく作り直すという1300年も前から続けられている儀式のこと。高度な技能を必要とする造営技術が伝承されるための機会にもなっているわけだが、21年ぶりに実施されたセンチュリーのフルモデルチェンジは、まさにトヨタにおける式年遷宮と言えそうだ。

センチュリー

 高度な技能による最上級品質の実現は、デザインや建て付けなどの静的な部分にとどまらない。開発プロジェクトの牽引役のひとりである吉ヶ崎 建さんに聞いた。

「動的な部分、たとえば足まわりの組み付けなどでも徹底して行っています。アクスルやボディの素性をデータ化することで、それぞれのわずかな個体差の把握を行い、さらには間に入るブラケットなどの選択による調整作業を行うことで、バラつきを抑えた最良の組み合わせとなるように作っているんです。センチュリーがもっとも大切にしていることは、最上のくつろぎ空間を提供する移動手段であることです」

「そのためには、乗員の方にほんのわずかな違和感も覚えさせてはいけません。むしろ、そうした『違和感』という存在があることすら忘れてしまうような、そんなセンチュリーだからこその世界観を構築することを大切にしています。矛盾した言い方になってしまいますが、徹底的に違和感を排除することで、なにも感じなくなってしまうような、そんな高いレベルの心地よさ、気持ちよさを味わっていただきたいというのがわれわれの想いなんです」

 一般的な市販車では、完成後に個体ごとに2〜3㎞程度の距離の走行テストを実施するが、センチュリーでは50㎞にもおよぶ。品質検査にも匠の技が生かされ、2名ひと組になった検査員が走行時の静粛性についても厳重なチェックを行っている。

 この静粛性の進化も、今回の開発のこだわりのひとつ。搭載されるエンジンは環境性能の進化を目的に、先代の12気筒から8気筒ハイブリッドへと変更されているが、新型では後席乗員がエンジンのかかったことに気付かないレベルの静粛性を目指したという。マウント系のチューニングや、エンジンがかかった瞬間のトルクの立ち上がりにもこだわったほか、エンジン音と逆位相の音を発することで室内のノイズを打ち消すアクティブノイズコントロールシステムでは、集音マイクを一般的なシステムの3つから4つへと増設し、より高いノイズキャンセル効果を実現。センチュリー

「室内天井に貼るサイレンサーという防音材は、一般的なクルマの場合、天井の骨の間に収まりやすくするため、ある程度の隙間を作って内装材にあらかじめ貼り付けておき、丸ごと貼り付けるんですが、センチュリーでは実際に専任作業員が天井を見上げながら骨の間に手作業で隙間なく貼り付けています。フロアも同様です。トンネルなどの貼り付けづらいふくらみ部分も、丁寧に手貼りすることで隙間なく貼り付けているんです」と、吉ヶ崎さんがこう語る、こうした労を惜しまない細やかな工夫は、後席の乗員に最上級のおもてなしをするためのもの。

作り手の魂や心を引き継ぐこともセンチュリーの使命

 センチュリーはトヨタ自動車東日本の東富士工場で生産されているが、今回の開発プロジェクトにトヨタ自動車東日本から参画した村田重光さんから、次のようなエピソードを聞かせてもらった。

「新型の開発にあたり、私たちは『快適性ワーキング』というアイディアを出し合う独特な会を立ち上げました。お乗りになる方が、まずクルマを見る、そして乗り込む、座る、車内で過ごす、降りる、さらにはクルマの後ろ姿を見送るまでのすべてのシーンにおける『見る』『聴く』『触る』を徹底的に掘り下げ、そこで出された意見やアイディアをひとつひとつの部品に落とし込むといった試みを行ったんです」

「この会議は週に2回、各領域の部品設計や評価部署、製品企画のメンバーやエンジニアなども出席して、ずっと積み重ねてやってきました。お乗りになっていただく方がくつろぐための姿勢はもちろん、さまざまな年齢の方が室内で快適に疲れずに読書ができる読書灯の色温度の検討や、足もとに物が落ちても拾いやすいランプの明るさや照らし方など、後席の方のあらゆる動作を想定して快適性の追求を行ったんです。開発メンバーの全員が誰かに強制されることなく、むしろプライドを持って積極的にやってやろうという気持ちにさせてくれるのは、やはりセンチュリーが特別な存在だからだと思います。センチュリーの開発テーマにある『継承』は、私たちにとって、作り手の魂や心を引き継ぐことでもあるんです」

 最後に開発責任者の田部さんが、さらに付け加えてくださった。

「新型ではとくに運転のしやすさにもこだわって開発しました。運転する方がストレスなくドライブできれば、後席の方を気づかう余裕が生まれますし、より安全に運転することもできます。結果、運転のしやすさも後席の方へのおもてなしにもなります。一切の妥協を許さず、やれることをすべてやり切る。それがセンチュリーというクルマです」

 開発者全員が掛け値なしに最高級のクルマを作ろうという想いで臨んだと語る田部さん。新型センチュリーは、トヨタ自動車の匠の技の結集というだけでなく、エンジニアたちの熱い信念と高いプライドの結晶であるとも言えそうだ。


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