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新型トヨタ・センチュリーのキーマンが語る3代目開発のこだわりとは (2/2ページ)

新型トヨタ・センチュリーのキーマンが語る3代目開発のこだわりとは

すべては後席のVIPのおもてなしのために

 1967年、トヨタグループの創始者である豊田佐吉氏の生誕100年を記念して発売されたトヨタ・センチュリー。以来およそ半世紀に亘って、皇室や大企業のトップなど、各界のエグゼクティブに愛され続けている日本を代表するショーファードリブンカーだ。

 センチュリーの最大の特徴のひとつは、一般的な量産車とは一線を画す比類なき高品質。それを支えているのは、研ぎ澄まされた感覚と高度な技能を持った「匠」と呼ばれるセンチュリー専任の作業者たちだ。

 ボディの生産や塗装、組み立て、さらには最終検査に至るまで、選ばれた少数の専任作業者たちによる手作業工程を数多く採用。もはや工業製品というよりも、工芸品と呼んでも大げさではないほど「手作り」のクルマとなっている。完成したクルマについても1台ごとに「ヒストリーブック」と呼ばれる検査結果を記したバインダー状の記録冊子が作製され、そこにはひとつひとつのボルトの締め付けトルクまでが記録されるという徹底ぶりだ。

 そのセンチュリーが21年ぶりのフルモデルチェンジを実施。開発テーマは「継承と進化」。その狙いについて、開発責任者を務めた田部正人さんは次のように語る。

「後席にお乗り頂く方への最上級のおもてなし。そしてトヨタが誇る匠の技。こうしたセンチュリーのDNAをしっかりと守りながら、そこに20年分の進化を盛り込み、日本の新しい高級車像を確立させること。それが新型センチュリーの目指したものです」

 たとえば、吸い込まれそうな深みをたたえた鏡面仕上げのボディカラー「エターナルブラック〈神威〉」も、伝統を「継承」しながら、さらなる「進化」によって実現したものだ。

「黒のボディカラーは、先代では5コートだったものが、新型では7コートへと進化しました。3つあるクリア層のうち、ひとつには黒染料入りのカラークリアを採用しています。染料は非常に粒子が細かくて光を反射しないため、より深みのある漆黒感が出るんです。これだけでも一般的な量産車の倍以上の手間です。ですが、ひとつひとつの層にわずかな凹凸が残ったままで次の層を塗り重ねてしまうと、完璧な鏡面には仕上りません。そのためセンチュリーでは、3回に亘る『水研ぎ』工程を繰り返しています。これは塗装の『匠』が、流水のなかで、素手で仕上がりを確かめながら微細な凹凸を修正するというものです。さらにそのあとで『鏡面仕上げ』のための磨きを行うことで、ようやくあれほどの平滑性と艶を実現できるんです」

匠たちが作るセンチュリーはわずかなバラつきも許されない

 近年の大量生産車の生産ラインでは、早いものでは1分に1台の割合でクルマが完成する。だが、センチュリーは1日に生産可能な台数はわずか3台。実際には2〜2.5台程度が1日の生産台数となるという。

 企画の当初から新型の開発プロジェクトに携わってきた西村美明さんにも、センチュリーのこだわりの数々を聞くことができた。

「自動車の生産工場というのは何千人もの作業員たちが働いている場所ですが、センチュリーのメインラインでは基本的に6人で1台のクルマを組んでいます。ひとりが受け持つ範囲が非常に広いんです。ですから工程の前後の関係を見ながら作業することができます。たとえばいくつもの部品を仮止めしてから、最良の調整を行って本止めするといったこともできるんです」

 室内中央にあるタワーコンソールの位置調整もそのひとつだ。前席左右のシートの真んなかに備わっているため、ほんのわずかな傾きがあっても、後席に座る人の目には違和感が生じてしまう。工業製品というものは、どれほど精度が高くとも、微細な個体差が生まれてしまうものなのだが、センチュリーでは、そのわずかなバラつきさえも感じさせないよう、組み付けの最終段階で人間の目と手による位置調整を行い、もっとも美しく見える位置で固定しているのだ。

「建て付けのよさは、質感に大きく影響する要素です。人間の目はとても繊細ですからね。ほんの小さなすき間や傾きがあっただけでも、質感の違いを感じてしまうんです。複数の部品を建て付けよく組み合わせるためには、それぞれの部品にいくつもの基準穴を設けて、それを合致させることで位置を合わせる方法と、長穴のような調整マージンのある穴を利用して組み付けを調整する方法とがあります。センチュリーではそれぞれの箇所で最適な手法を選び、また両者を組み合わせることで、最上の建て付けのよさを実現しています。外観について言うと、ドアの下にあるメッキモールも上下方向を調整できるようにしてあり、組み付けの最後の段階で匠による調整を行い、固定しています」

 新型センチュリーの実車を見る機会があれば、ドアの表面とその下のメッキモールの映り込みにも目を向けることをお勧めする。クルマが置かれた場所に駐車ラインなどの白線が引かれていれば、そのラインの輪郭がわずかにもゆがむことなく美しくボディに映り込んでいるのを確認できるはずだ。

 この美しさは、塗装技術や塗料の進化はもちろん、匠の専任作業員による研ぎや磨きの技、そして彼らの研ぎ澄まされた感覚など、どれかひとつが欠けただけでも実現することはできない。田部さんはさらに次のように語る。

「その実現のためには、高いプレス技術も必要になります。もともとの板金のできが悪ければ、いくら研ぎや磨きで匠が高い技能を発揮しても、美しい映り込みはできません。新型センチュリーでは、ボディサイドの伸びやかなキャラクターラインに『几帳面』という技法を採用しています。これは平安時代の屏障具(へいしょうぐ)の柱にあしらわれていた面処理の技法です。細い2本の線を通すことで1本に見せるというとても精緻な表現です。これも非常に高度なプレス技術がなければ実現できませんし、そのうえセンチュリーでは、型から抜いたあとも、匠の専任作業員がごく小さな力で叩いて修正を行っています。匠たちは、私には見分けが付かないような微細な歪みも見逃しません。これらも一朝一夕では絶対に身に付かない技術なんです」

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