60km/hオーバーでの事故はたったの1%
「ゾーン30」という言葉をご存じだろうか? 「ゾーン30」とは、「生活道路における歩行者等の安全な通行を確保することを目的として、区域(ゾーン)を定めて最高速度30キロメートル毎時の速度規制を実施するとともに、その他の安全対策を必要に応じて組み合わせ、ゾーン内における速度抑制や、ゾーン内を抜け道として通行する行為の抑制等を図る生活道路対策です」(警察庁交通局の資料より)。
警察庁では2011年より音頭をとって、この「ゾーン30」の整備を進めていて、2017年度末までに全国で3407カ所の整備が済んでいる。
この「ゾーン30」のエリアでは、中央線の抹消、車道幅員の減少や、路面に意図的にバンプを設けたり、狭さく(ポール)を設置して、クルマの速度を落とすための工夫を凝らしている。30km/hという数字の根拠は、クルマと歩行者が衝突した場合、クルマの速度が30km/hを超えると歩行者の致死率が急激に上昇するというデータがあるため。
実際、「ゾーン30」の導入前と導入後では、同じ道でも事故率が23.5%減少したと報告されている。欧州では、1990年代から都市部でこうした整備が進んでいて実績もあり、生活道路で「ゾーン30」を導入するのは、概ね賛成できるところ。
しかし、見通しのいい交差点や合流地点でも、やたらと「止まれ」という標識があるのはいただけない。「徐行」もしくはどちらの道が「優先」かをはっきり表示するだけで十分なはず。逆に見通しの悪い交差点では、停止線で止まっても左右を確認できないケースも多い……。信号も無駄に多いし、やたらとクルマを止めたがるのが、日本の道路のひとつの特徴になっている。
また「ゾーン30」のように、生活道路での最高速度を抑えることは賛成できるが、郊外のバイパスや高速道路の制限速度まで著しく低いのは、日本の道路の大きな欠点。ドイツ、フランス、イタリアなどのヨーロッパの主要国では、市街道路の最高速度は50km/h、郊外の一般道は80~100km/h、高速道路は120~130km/h(アウトバーンは一部が速度無制限)と、シチュエーションに合わせてメリハリの利いた速度設定になっている。それに対し、我が国の制限速度はあまりにも低い!
あまり知られていない(意識していない?)かもしれないが、首都高速の都心環状線の制限速度は、じつは50km/hになっていて、ジャンクションだと40km/h制限も……。中央道も、東京都の一部区間を除き制限速度は80km/h以下!!
日本の交通行政の関係者は、「制限速度は低いほうが安全」と思い込み、制限速度引き上げに強い抵抗感(慎重?)のある人が多いようだが、きちんと統計を調べてみると、人身事故の事故直前速度は、20km/h以下が61%! 20~40キロkm/hでも28%もあり、60km/hオーバーでの事故は、たったの1%というデータがある(事故直前速度別事故発生状況)。
事故を減らす=制限速度を抑えるという発想は、はっきり言って時代遅れで過去の遺物に過ぎない。これからのクルマ社会を考えるうえで大事なのは、ほかの交通機関と同じように、「いかに安全で、速く移動できるか」という点。「安全」というファクターは、これからも重視していかなければならないが、同時に「より速く」も追及していかないと、クルマの魅力は薄れるばかり。
制限速度というのは、「いくらなんでも、これ以上速く走るのはリスキーだ」「クレージーだ」という数字を設定するべきで、多くの人が走る速度=実勢速度+αにするのが一番理想。根拠も薄く、大半のクルマが設定されている制限速度よりも速く流れているというのは、一日も早く改めて、生活道路のような抑えるべきところはきちんと抑え、高速道路や郊外のバイパスなどでは、もっと大胆に制限速度を引き上げて、利用者が納得できる速度に見直し、安全性とともに、速く自由に移動できるクルマの魅力を取り戻してほしいモノだ。