トヨタ・アクアと日産ノートに惨敗のホンダ・フィットには何が足りないのか?

売りやすいN-BOXに顧客が流れているも足りないのは……

 2018年上半期(1〜6月)の登録台数を見ると、小型/普通車の1位は日産ノート(7万3380台)、2位はトヨタアクア(6万6144台)だった。ライバルのホンダフィット(4万7962台)は、大幅に下がって5位になる。フィットに何が欠けているのか。

 ホンダカーズ(販売店)のセールスマンからは「フィットはリコールを繰り返し受けた結果、信頼性を下げた」という声が聞かれる。現行フィットは2013年9月に発売されたが、10月にはハイブリッドの7速DCT(AT)の不具合でリコールが実施された。このあとも複数回のリコールを受け、ユーザーと販売現場を混乱させてしまった。この影響が今も残っているというわけだ。

 また同じホンダのN-BOXもフィットの売れ行きに関係している。N-BOXは先代型を含めて人気が高く、2017年9月には現行型に一新され、販売台数がさらに伸びた。2018年上半期の届け出台数は12万7548台だから、小型/普通車で1位のノートと比べても5万4168台多い。突出した人気車だ。

 そしてN-BOXの価格は、人気の高いカスタムG・Lホンダセンシングが169万8840円になる。フィットの1.3リッターエンジン搭載車で売れ筋の13G・Lホンダセンシングも165万3480円だから、両車の価格はほぼ横並びだ。

 N-BOXは軽自動車ながら天井が高く、後席を含めて車内が広い。シートアレンジも充実して、後席を畳めば自転車も積みやすい。外観はカスタムならエアロパーツを装着してカッコ良く仕上げている。価格が同等であれば、N-BOXとフィットを比べて、N-BOXを選ぶユーザーもいるだろう。

 セールスマンとしても、フィットではノートやアクアと競うが、N-BOXならば実質的に無敵だ。数年後に売却するときの価格なども含めて、選択に迷っているユーザーにはN-BOXを推奨している。その結果、今のホンダの国内販売では、軽自動車が約半数に達した。この影響をもっとも強く受けているのがフィットだろう。この場合、フィットに欠けているのは、メーカーと販売会社によって作られる「総合的な販売力」になる。

 ライバル車の事情も見ておきたい。日産車は全般的に設計が古く、堅調に売れる車種が少ない。ノートのほかは、軽自動車のデイズとデイズルークス、ミニバンのセレナ、SUVのエクストレイルくらいだ。その結果、生産を終えたティーダやラティオ、発売から10年近くを経たキューブ、5ナンバーセダンだったブルーバードシルフィなど、さまざまな日産車のユーザーが、e-POWERを加えて満足感を高めたノートを集中的に選んでいる。つまりノートの好調な売れ行きは、選択肢を減らされた日産車ユーザーの不満の表われともいえるわけだ。

 そのためノートは1位を取ったのに、2018年上半期における日産のメーカー別国内販売順位は、トヨタ/ホンダ/スズキに次いで4位だった。しかもダイハツとほぼ同じ台数だから、月別の台数では5位になることも多い。このランキング順位からも、ノートが消去法的に選ばれて売れ行きを伸ばしたことがわかる。

 アクアにも事情がある。2015年に発売されたトヨタ・プリウスが、個性的な外観も災いして売れ行きが伸び悩み、発売から6年以上を経過したアクアを選ぶユーザーが多い。その結果、上位に入ってフィットの順位を下げた。

 フィットの車両自体にも、足りないところがある。まずボディスタイルだ。鋭角的でヘッドライトが薄く見えるフロントマスクは、ユーザーによって好みがわかれる。とくにフィットのようなコンパクトカーは、営業車などに使われるケースも多く、個性的な形状は敬遠されやすい。プリウスが販売を低迷させた背景にもデザインがある。その意味でフィットには、ヘッドライトがキチンと見える「普通の顔立ち」が足りない。

 外観が個性的なのに、機能は実用重視の印象が強い。ノートe-POWERのアクセルペダルだけで速度を自由に調節できる運転感覚とか、アクアのスポーティな雰囲気が乏しい。後席と荷室が広く、シートアレンジも多彩だが、価値観はミニバン的で地味だ。フィットには、運転する楽しさ、面白さに繋がる個性的な機能も欠けている。

 さらにいえば、ホンダ車のスポーティなブランドイメージも活用できていない。フィットRSにはせっかく6速MTを用意したのに、エンジンはベーシックな1.5リッターだ。もう少し高回転指向のエンジンを搭載するなど手を加えたい。モデューロスタイルを追加したが、これはラグジュアリーな雰囲気で、1.3リッターのガソリンとハイブリッドのみの設定だ。1.5リッターは選べない。

 こういった点を踏まえると、フィットにはタイプRが欲しい。1997年に6代目シビックに設定された1.6リッターエンジンのタイプRは、今でいえばフィットタイプRのようなクルマで、価格も199万8000円と安かった。

 結論をいえばフィットには、ホンダ車らしさが欠けている。今でも「クルマを買うならトヨタか日産」と決めている中高年齢層のユーザーは少なくない。そこに対抗するには、ホンダらしい価値観とクルマ作りが不可欠だ。身内のN-BOXに対抗するためにも、広さや実用性とは違う「フィットならでは価値」が求められている。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
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