女性の求める「運転のしやすさ」は男性とは違う
「自分にちょうどいい、欲しいと思うクルマがない」と訴える若い女性たちの声に気づき、女性社員たちによる“現代女性の感性変化を調査する”プロジェクトを立ち上げたダイハツ。その中で見えてきた、「素の魅力」や「シンプルさ」、「肩ひじ張らない自然体」といったキーワードをもとに、新たに登場したベーシック軽自動車がダイハツ・ミラ トコットだ。
すでに試乗記でもお伝えしているが、その出来栄えは素晴らしいもの。とくに印象的だったのは、ステアリングやペダル、ブレーキなどのフィーリングがこれまでのどのダイハツ軽モデルとも違う感覚で、とにかく安心してスムースに運転できることだった。
じつはミラ トコットでは、そうした走行性能の開発・評価チームにも女性が参加しており、ダイハツとしては初めての試みだという。そこで今回は、そのご本人であるダイハツ工業・車両性能開発部・車両性能設計室の大井戸 智美さんに、ミラ トコットへの想いや開発秘話などをインタビューさせていただいた。
まるも「女性で車両開発・評価をする方って、ダイハツでは珍しいですよね?」
大井戸「そうですね、入社してから女性は私ひとりで、まだ下にも入ってこないのでひとりぼっちです(笑)」
まるも「ミラ トコットに関わったのはどの段階から?」
大井戸「もう、最初の企画段階からですね。女性のプロジェクトが企画に関わっていたので、操縦安定性の部分にも女性がいた方がいいということで参加しました」
まるも「いや〜、今回ミラ トコットに乗ってみて正直なところ安心したんですよ。もう8年ほど前になりますけど、先代のパッソ/ブーンも女性チームが企画・開発をリードしてきたというのが話題のクルマだったじゃないですか。でも私、発売されてすぐ運転してみたらフワッフワしていて、ちょっと怖いなと感じた部分もあって。それ以来、女性チームが云々っていうクルマは要注意だなって警戒するようになっちゃいましたからね(笑)。だから、ミラ トコットがここまでいいクルマになった秘密を知りたいんです」
大井戸「ありがとうございます。やっぱり操縦安定性の開発・評価をする男性たちに、普通の女性が言っていること、感じていることを理解してもらうのがまず難しいところなんですね。なので、私がそれを翻訳するように、しっかりと伝える役割もあったと思います」
まるも「確かに、女性がよく使う『かわいい』って言葉。あれにはすごくいろんな意味があるけど、その微妙なニュアンスが男性にはわからないですもんね。でもそんな中で、今回とくに感心したのはステアリングフィールなんですけど、これやっぱり大変でしたか?」
大井戸「大変でした〜! ミラ トコットの中でもステアリングのフィーリングはいちばんこだわった部分なのですが、女性が本当に求める『軽さ』というのを実現するのがとても難しくて。最初に試作として作ったモデルで社内の試乗会を開いたところ、男性の上司やほかの部署の方から「こんなに軽くていいのか」と厳しい意見が多かったんです。
でも、だからと言って、女性たちが求める軽さを簡単に諦めるわけにはいかない、という想いも強かったので、もう一度女性パネラーの方に乗ってもらって意見を聞きました。そうすると、やっぱりこの軽さが、買い物などでの街乗りではとてもいい、という意見をもらって、そのあたりは間違ってないなと確信しました。
ただ、高速道路では少しフラフラしやすかったり、今までのダイハツ軽モデルからすると、ハンドルの重さが効いてくるところではミラ トコットの軽さは違和感がある、ということもわかってきたんです」
まるも「なるほど、そこからどう修正したんですか?」
大井戸「そうした違和感のある部分は、もう少し安心方向に振ろうということで、軽さの数値は変わらないんですが、手応えみたいなところを少し足してあげたんです。そうすることで全然印象が変わって、最終的に上司たちにも納得してもらうことができました」
まるも「いわゆる“感性評価”ですよね」
大井戸「そうですね。数字には表れないところを人間は感じ取るので、機械では測れない部分がありますね。人間ってすごいなぁと思いましたし、今回のことで、やっぱりただ軽ければいい、ではないんだなと勉強させてもらいました。反対していた上司たちも、最初の低速ではまだ軽いけど、走り始めてからちょっと車速が上がっていくと、自然と手応えが出てくるから、これだったらいいねと言ってもらえるまでになったので、やり直して良かったと思っています」
まるも「安心感のある軽さ、という絶妙なフィーリングを実現したのはすごいですよね。今後のダイハツ軽モデルにも継承していけるんじゃないですか?」
大井戸「モデルごとにコンセプトが違うので、ミラ トコットのフィーリングをそのまま、というわけにはいかないとは思うのですが、パネラーの方や社内で乗ってもらう方々の意見を尊重しながら開発をしていく、という部分はぜひ今後のモデルでもやっていきたいと思います」