近代化にそぐわないため簡易な四輪が台頭
東南アジアや東アジア地域でよく目にするのが、三輪タクシー。タイでの呼び名“トゥクトゥク”が有名だが、インドネシアでは“バジャイ”と呼ばれている。インドネシアの首都ジャカルタでは昨年訪れた時に4輪タイプの“ニューウェーブ・バジャイ”とでもいうべきモデルをパラパラと見かけるようになった。そして今年再びジャカルタを訪れると、かなりの台数がすでに街なかを走りまわっていた。
バジャイを生産している、“バジャイオート”のウエブサイトを見ると、その四輪タイプのバジャイは、“QUTE”と呼ばれるモデルとなる。“4輪車だけどクルマじゃない”などといいうフレーズがウエブサイトにもあり、“三輪バジャイ以上、一般の四輪自動車以下”という新たなカテゴリーを創設したというようなことを言いたいようであった。
全長2752×全幅1312×全高1652mmでホイールベースは1925mm。216.6㏄のCNG又はLPGエンジンを搭載し、最高出力は13.2馬力で最高速度は70㎞/hとなっている。トランスミッションは前進5速、後退1速のシーケンシャルギアシフトを採用している。乗車定員はドライバーを含めて4名となり、4枚のヒンジ式ドアを持っている。シートベルトまで装備し、いままでのバジャイに比べればその進化ぶりには驚くばかりである。現にジャカルタ市内で、営業用ではなくマイカーとしてこのQUTEを使っていたファミリーを見かけた。
バジャイのような三輪タクシーの源流は日本から輸出された(中古のようだったが)ダイハツの三輪トラック“ミゼット”をベースにしたとされており、以来ミゼットではなくなったが、三輪タクシーという基本コンセプトは不変のものとなってきたが、ここへきて4輪タイプが登場したということになる。
生活の足として使う地元民のひとたちにとってみれば、三輪から四輪になり、より“フツーのクルマ”になるのは歓迎すべきことなのかもしれない。しかし、勝手な言い分かもしれないが、観光や出張などでたまに訪れる外国人の立場からすれば、三輪タクシーの存在は街の景観のひとつであったが、それが四輪バジャイではどうにもこうにもミスマッチなイメージを持ってしまうのである。
また、先進国のような最新の高層ビルなどの建設の進むジャカルタにあっては、バジャイの存在が近代化にそぐわないということで、ここ数年行政当局の規制強化が行われているとのこともあるのか、昨年に比べ今年は「バジャイが少なくなったような……」と思うほど、以前よりは目立たなくなっていることを強く感じた。
7月末から8月上旬にかけてインドネシアを訪れていたのだが、そのタイミングはまさに8月18日から始まるアジア競技大会の開催間近。バジャイの話だけでなく、「インドネシアらしいなあ」と思える雑多な風景が街なかから消えていた。
国が発展し、街が近代化していくことはけっして悪いことではない。ただ生活臭あふれる人間臭い風景が消えていくことはやはり寂しいことである。