新型センチュリーには先代のような「独自性」がない
先代センチュリーは1997年の発売だから設計は古かったが、エンジンは国産乗用車で唯一のV型12気筒5リッターを搭載した。生産台数は20年で約1万台だから、量産効果も乏しく、結果的にきわめて高コストなエンジンとなった。
新型センチュリーはV型8気筒の5リッターでハイブリッドを構成するから、20年を経過しただけに進化した印象を受けるが、先代レクサスLS600hLのパワーユニットとプラットフォームを使って開発されている。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も3090mmで先代レクサスLS600hLと等しく、プラットフォームはそのまま踏襲された。
また先代レクサスLS600hLは、5リッターのハイブリッドが高出力を発揮するという理由で、トルセンLSDを併用するセンターデフ式フルタイム4WDを搭載していた。それなのに新型センチュリーは後輪駆動の2WDだ。
つまり新型センチュリーは、先代レクサスLS600hLのプラットフォームと、簡素化されたパワーユニットを使って開発されている。一般的なクルマであれば、パワーユニットやプラットフォームの素性など、どうでも良い話だ。優れたチューニングを受け、高い走行性能と快適な乗り心地を備えることが重要になる。クルマの価値を正確に判断するには、先入観や予備知識に頼らず、商品力を見極めることが求められる。
しかしセンチュリーとなれば話は別だろう。トヨタブランドの最上級車種で、先代型がV型12気筒を搭載したことからもわかるように、特別なクルマに仕上げられてきた。トヨタには伝統の高級車としてクラウンがあり、1991年以降は、上級シリーズのクラウンマジェスタも加わった(現行型では廃止)。
センチュリーはそのクラウンを超える存在として渾身の開発が行われ、レクサスLSやメルセデス・ベンツSクラスなどとは違う日本車ならではの孤高ともいえる高級車であった。
それが先代レクサスLSをベースに開発されたと聞けば、新型センチュリーの価値は大幅に薄れてしまう。とくに日本には「トヨタは好きだがレクサスは嫌い」という人が多い。レクサスは商品から販売店の作りまで、すべてが北米を中心とした海外流だから、日本人の感覚に合わないのは当然だ。背景にある「レクサスは普通の日本車ではありません。プレミアムブランドです」という一種の選民意識もハナにつく。
そのレクサスの、しかも先代LS600hをベースにセンチュリーを作ったと聞けば、愉快な気分にはなれない。商品自体は設計の新しい車種とあってセンチュリーも優れている。後席の快適性を最優先させた本当の意味でのVIPセダンだから、現行レクサスLSと後席の乗り比べをしても、センチュリーのほうが快適だ。路上の細かなデコボコを乗員に伝えにくく、車道から歩道に乗り入れるときの段差もしっかりと吸収する。
これに比べるとレクサスLSは、グレードによって乗り心地が硬い。最上級のエグゼクティブと比べても、後席の快適性はセンチュリーが勝っている。逆にユーザーが自分で運転するクルマとしては、レクサスLSのほうが適する。
従ってセンチュリーとレクサスLSでは、価値観がまったく異なって機能は一長一短だが、結論はレクサスLSの圧勝だ。
理由は価格にある。先代センチュリーは1253万8286円だったが、新型は1960万円に達した。700万円以上も値上げされている。先代センチュリーが高コストなV型12気筒エンジンを積んだことも考えると、新型がハイブリッドになったとはいえ、価格が1.6倍に跳ね上がる理由はどこにもない。
新型センチュリーが高価格なのは、商品の価値ではなく、販売計画によるものだ。1997年に先代センチュリーを発売した時点の月販目標は200台だったが、新型センチュリーは50台にとどまる。
しかも今後の環境対応に基づく電動化、自動運転技術への対応などを考えると、先代型のように20年間も生産できるとは限らない。月販台数が50台で、生産を15年間で終えたと仮定すれば、新型センチュリーの生産総数は9000台だ。2017年度(2017年3月から2018年4月)におけるトヨタアクアの1カ月平均(1万742台)に満たない。そうなれば価格を高めざるを得ない。
新型センチュリーは、メーカーの都合で過度に割高なクルマになってしまった。ベースが先代レクサスLS600hという情けなさも含めて、推奨度は低い。レクサスLS500・Iパッケージが買い得だ。価格は1042万円と、新型センチュリーと比べて918万円安いのだから。