開発のキーマンが日本人を長年魅了するカローラの最新モデルに込めた思いとは (2/3ページ)

カッコいいクルマを作るためならどんな苦労も苦にならない

 カローラ スポーツの開発では、この「コネクティッド」という価値に加え、「スタイリング」、「走り」、「安全」そして「環境」の5つが、クルマ本来の楽しさを追求するための重要なポイントとして掲げられたという。

「とりわけデザインには力を入れました。個人的にも、見た瞬間にカッコよく思えることはいいクルマの絶対条件だと思っています。目指したのは、ワイド&ローで、スタンスや骨格のよさが感じられるスタイリングです。止まっているときでも、クルマが今にも動き出しそうな躍動感を目指しました」

 グッと絞り込んだリヤまわり、豊かな抑揚としっかりとした踏ん張り感が印象的なサイドビューや、強い前進感を感じさせる低いエンジンフードなど。これまでのカローラとはひと味もふた味も違うスポーティさが感じられるスタイリングは、実現までには数多くの高いハードルを越える必要があった。開発メンバーの一員である梅村伸一郎さんは次のように振り返る。

「当初は生産現場からも不可能だという声があがったほどのチャレンジでした。たとえばエンジンフードで言えば、従来のトヨタ車よりおよそ100mmも低くなっています。それを実現させるためには、エンジンやトランスミッションをはじめ、何百もの部品を小さく低い配置にしなければなりません。そのためだけでも3年くらいかかっているんです」

 カローラ スポーツの開発では、かなり早い段階で1分の1モデルの作製を実施。これはデザインの検証というよりも、設計や実験、生産現場などの各部署にデザインの重要性を理解してもらうことを主たる目的としたものだ。この段階でフルスケールモデルを作るというのは、かなり異例なことと言える。

「実際に形を目にして、そのカッコよさに納得すると、なんとしても作ろうというマインドが生まれます。トヨタのエンジニアはみんなもともとすごいパワーを持っています。一度ベクトルが合うと、ものすごい勢いでそこにパワーが向かうんです。カッコいいクルマを作るためなら、どんな苦労も苦にならない。そんなメンバーたちばかりが集まっていたからこそ実現できたのだと思います」

 リヤまわりのデザインも、その実現には幾多の困難が立ちはだかったという。開発チームの本多義行さんに伺った。

「絞り込んだリヤのバックドアは鉄板では絶対に不可能な形状です。軽量に作れば使い勝手もよくなることから、開発当初から樹脂製バックドアを採用すると決めていました。樹脂製はカローラ フィールダーでも採用実績がありましたが、ここまでラウンドした形状は初めてで、実現には想像以上の難しさがありました。樹脂は熱を持つと膨張するという特性があるので、型から抜いたときの変形が大きく、最初の段階では3〜4mmも変形量があって、それでは到底商品にはなりません」

「裏面に複雑なリブ形状を加えるといった補強によって変形量を最小限に留め、さらに、あらかじめその変形を想定して最終的な形状が適切になるような設計をするなど、さまざまな工夫によって実現させました。補強も入れ過ぎると重量がかさみますから、なるべく軽くできるようにもっとも効き目のある場所を探すなど、何度もトライ&エラーを重ねました」

 トヨタ車体から開発メンバーとして参加した笠原太地さんも、リヤまわりのデザインの実現に大きな貢献を果たしたひとりだ。

「リヤまわりのパッケージングでは、後席の視界にもこだわりました。まずは後席乗員が真横の景色を見られるようリヤドアガラス後端を決め、斜め後ろを走るクルマを認識するのに必要な視野角を計算、Cピラーの適切な位置を探り出し、幅を追い込みました。さらにはクルマの真後ろに小さな小学生が立っていてもしっかりと確認できる後方視界を確保し、視界とデザインの両立を図っています。また、絞ったリヤまわりはラゲッジにも不利な要素となるのですが、設計と協力しながら毎週のように何時間も検討を重ね、あらゆる寸法をミリ単位で見直して、デザインを犠牲にすることなく、ゴルフバッグを水平に積み込める間口を実現させています」

 カローラ スポーツにとっては「走り」も絶対に譲れない要素のひとつとなった。開発期間の後期には、5大陸で延べ100万kmもの走行試験を実施。世界のあらゆる場所でも安心・快適な乗り心地が感じられる走りを実現した。

「奇をてらうような乗り味ではなく、ステアリングを切ったら切った分だけ曲がり、真っすぐな道では安心して真っすぐに走れるような乗り味にこだわりました。目指したのは、いつまでもずっと運転していたくなるような気持ちのいい走りです。とくにこだわったのは、最初の5m、10mで感じていただける走り出しの気持ちよさです。まるでスケートリンクを滑るようななめらかさです」と、小西さんが語るように、味付けはじつにシンプルだ。もちろんその分、奥深いものになる。


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