マツダが巨費を投じて毎年フルチェンレベルの商品改良を続ける意図とは?

欲しい時が買い時というユーザーファーストな考え方

 マイナーチェンジというと、外装でいえばグリルやバンパーを変え、内装ではシート地などを手直しする程度の違いといったイメージを持っているのではないだろうか。エンジンなどにしてもプログラミングで対応できる範囲で進化させたとしても、マイナーチェンジでユニットごと変えてしまうというケースは少ない。実際、そうした小変更を2~3年に一度実施するメーカーが多かった。

 しかし、最近ではイヤーモデルといった捉え方をして、毎年のようにマイナーチェンジを繰り返すことが増えてきた。そのくらい、常にアップデートしていかないと商品力が維持できない時代になっている。そのため、かつてのマイナーチェンジという言葉から想像する以上の内容で進化しているケースも増えている。中でも、マツダのマイナーチェンジは範囲が広く、通常では変えないであろう部分まで手を入れているという印象がある。

 2018年上半期に実施した、「CX-3」と「アテンザ」、「ロードスター/ロードスターRF」という各モデルのマイナーチェンジも、まさにマツダらしい大幅な進化を遂げている。それぞれ代表的な要素を挙げると、「CX-3」ではディーゼルエンジンの排気量が1.5リッターから1.8リッターへ増え、またEPB(電子パーキングブレーキ)の新採用に合わせてセンターコンソールが変わっている。「アテンザ」は前後バンパーとトランクリッド(セダンのみ)を一新しただけでなく、インパネの形状も変えている。現行モデルにおいてマイナーチェンジでインパネを変えるのは2度目というから驚きだ。エンジンの基本は同じだが、2.2リッターディーゼルはCX-8から採用された最新ユニットにアップデートされ、2.5リッターガソリンエンジンには燃費を稼ぐ気筒休止機構が設定された。

 そのほか、大幅変更とは銘打っていないが「ロードスター/ロードスターRF」のマイナーチェンジでは2リッターエンジンが26馬力もアップしているほか、プリクラッシュセーフティシステムを搭載した。

 当たり前のことだが、技術は日進月歩で進化するが、そのテクノロジーを搭載しなければ商品力は上がらない。そこで商品性を高めるために、絶えずアップデートしていくことはユーザーファーストの姿勢といえる。ともすれば新テクノロジーはフルモデルチェンジ時の目玉に取っておこうということになりがちだが、「最新は最良」というスタンスに立つことで、ユーザーは待つことなく、欲しいときが買い時ということになる。

 また、「アテンザ」の改良からもわかるように、すでに他モデルに展開したテクノロジー(今回の場合は新制御のディーゼルエンジンなど)を早めに採用することで、フラッグシップモデルであることのプライドを守っているという面もあるだろう。モデルラインアップが限られ、それぞれのモデルライフが長くなる傾向にあるマツダのような規模のメーカーでは、こうした点は重要だ。そしてブランドへの信頼感が高まれば、新車効果に頼らず安定したセールスが見込めるのだ。

 ただし、モデルライフの中で幾度も大幅改良を実施するというのは諸刃の剣となる。というのは、中古車価格(リセールバリュー)への影響が少なくないからだ。昔ながらのマイナーチェンジであれば、中古車価格の相場は基本的には年式によって変化すると考えていいが、デザインやパフォーマンスといった要素で大きく進化を遂げると、現行モデルであっても初期型の価値が年式以上に下がる傾向が生まれてくる。リセールバリューもクルマの価値であるし、とくに残価設定ローンにおいては月々の支払い額に影響がある。

 大幅改良を繰り返すことで商品性を常に高めていくという戦略を取るには、リセールバリューをケアする必要があるのだ。逆にいうと、新世代商品群からセールスの方針を変え、非常にリセールバリューに優れたブランドへと成長したゆえに、積極的に大幅改良を行なえるようになったという見方もできるだろう。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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