エンジンの場合加速のよさを求めると自ずとパワーも上がる傾向
国産車には、かつて280馬力という自主規制もあったが、いまや300馬力オーバーのクルマは珍しくなく、日産GT-R NISMOに至っては600馬力(441kW)の最高出力と652N・mの最大トルクを実現している。とはいえ、高速道路のほとんどにおいて100km/hを上限としている日本において、これほどの出力(パワー)が必要なのか、という疑問もある。
しかもパワートレインの出力が影響するのは最高速だけではない。加速性能もパフォーマンスを推し量る上で重要な指標となっている。たとえ、100km/hまでしか出せない社会であっても、0-100km/h加速というのは走りにおいて差別化するポイントであり、また短い距離でもしっかりと加速できるというのは安全面でも重要な性能になる。発進加速に大きく影響するのは発進領域で使用する変速比とパワートレインの低速トルクだ。変速比は低くすること、エンジンでいえば低回転から太いトルクを出すことが加速性能を向上させる。
そして、出力というのはトルク×発生回転によって決まってくる。さらにガソリンエンジンについていえば、低速トルクを太らせようとすると、自然と中高速域のトルクも増えてしまう。当然、最高出力も高くなるというわけだ。もっとも、最近のエンジンはトルクの目標値によって制御している傾向にあり、トランスミッションの保護などでの視点からピークトルクについては抑えめとなっているケースもある。
いずれにしても内燃機関を積むクルマにおいては発進加速の鋭さを求めると自然と最高出力も高まってしまうのだ。一方、ハイブリッドカーやEVなどの電動車両は、電気モーターの特性から発進時に最大トルクを発生することは知られている。固定変速比で、モーター出力も控えめなため最高速は内燃機関のクルマには敵わない電動車両だが、ゼロ発進から60km/h程度までの加速だけを求めるのであれば、同クラスの内燃機関に優るパフォーマンスを持つ。
つまり、制限速度内での加速性能を求めるがゆえに最高出力が高まる傾向にあると仮定するならば、今後は電動車両の普及によって最高出力はそれほどでなくとも十分な発進加速性能を持つクルマが増えてくると予想できる。また、内燃機関の最大トルクというのはアクセルが全開であるときのスペックで、ターボエンジンであれば過給圧がフルにかかっている状態で発生する。
そのためエンジンスペックで見かける最大トルクを発生していないケースもままあるものだ。しかし電気モーターであればアクセルを全開にすればスペックに近いトルクを発生させることができ、さらに変速がないため加速の伸びやかさも演出される。最高速度が制限されている環境においては電動車両というのは、走りの気持ちよさの面でもベストソリューションなのかもしれない。音や振動が与える刺激という要素はかなり減ってしまうのも事実だが……。