モノづくりとはどうあるべきか? そこまで踏み込んで考えた
今回の開発を、高いハードルが何重にもあって、紆余曲折も本当に多かったプロジェクトだったと語る山内さん。
じつは当初、RVRの後継車として企画が始まっていた。その後、コンパクトクラスSUVの市場が世界的に広がりを見せ、さらにRVRのようなベーシックなタイプと、高い上質感を全面に打ち出したタイプとの二極化が加速。スタイリッシュなクーペの世界観を持つSUVというエクリプス クロスのコンセプトは、より上質感のある新型車として投入するべきだという意見があがり、開発の途中でクルマの立ち位置の見直しが図られた。
「2016年、弊社の燃費不正問題は切り離すことのできない大きなことでした。あのときには、プロジェクトに携わっていた者がみな方向性を見失ってしまった瞬間もありました。モチベーションやチームワークにも影響がありました。それをもう一度、全員が同じ方向に向かう状態に戻すというのは、本当に大変なことでした」(山内さん)
「あのとき、開発の現場では自分たちの仕事を総点検しました。私のまわりの部署では、モノづくりとはどうあるべきかという深い部分にまで踏み込んで考えていました。けれど、あのときのことは、全員がもう一度真摯な気持ちでモノづくりの原点に戻ろうというきっかけにもなったのだと思います」(粟野さん)
「あの状態から、このクルマを作り上げるのは、山内でなければ難しかったような気がします。山内はとにかく直接顔を合わせてお互いの気持ちを理解し合うことを大事にするタイプ。相手がどんなに厳しい意見をぶつけてきても、そこにしっかりと向き合う。山内のそんな熱意があったからこそ、ここまで来られたんじゃないかと思います」(林さん)
「会う機会が一度増えれば、それだけ想いも伝わるはず。クルマは単なる道具ではなく人の心を動かすものだし、そういうクルマを作るためには、自分自身がそうでなければならない。ずっとそう思いながら三菱自動車で仕事をしてきました。今回の開発も、もちろんその気持ちを貫いてきました。カッコイイことなんかなにもない、本当に泥のなかをもがきながら歩くような開発でした」(山内さん)
言葉を連ねることよりも、自分たちの作ったクルマを見てもらうことで信頼を勝ち取りたい。おそらく開発メンバーたちが抱いていたであろうその想いは、どこまでも愚直で、限りなく真摯な姿勢といえるだろう。
目をそらさずにしっかりと向き合うこと。その姿勢の原点になっているのは、クルマが好きで好きでたまらないという、とてもシンプルな想いなのかもしれない。
「私がクルマの楽しさに目覚めたきっかけは、1987年に誕生したギャランVR-4。当時は大学生だったので新車を購入できず、中古車を一生懸命探し手に入れました。あのクルマに、走ることってこんなに楽しいんだって教えてもらったんです。それで三菱自動車が好きになって、それがそのまま入社したいって理由になったんです」(山内さん)
苦労の多い開発だったけれど、自信の持てるクルマを作り上げることができた今は、どれもいい思い出と語る山内さん。心から楽しそうにクルマの話をする表情が、とても印象的だった。ライフスタイルを広げてくれる、相棒になれるクルマを目指して開発された新型エクリプス クロス。コンパクトなそのボディには、収まり切らないほどのエンジニアたちの熱い想いが詰まっている。