ベストバランスの実現のため一切妥協したくなかった
見どころはほかにもまだまだある。スタイリッシュなクーペフォルムを採用しながら、SUVらしい走行性能や居住性、ユーティリティなどを犠牲にしていないということもそのひとつ。この実現のために、リヤをダブルガラスにしたり、その分割点をミリ単位で調節したり、さらにはワイパーをリヤスポイラーに隠すように配置するなど、考え得るすべての試行錯誤を徹底的に行っている。
また、コンパクトクラスのSUVとしては極めて珍しいスライド&リクライニング機構を採用したリヤシートも注目ポイントだ。この実現に尽力した商品企画担当の林祐一郎さんと、開発部門の技術系のとりまとめをした粟野正浩さんは、次のように語ってくれた。
「リヤシートのリクライニングって、コストもかかりますし、重量もかさみます。このクラスのクルマでは必要ないだろうという意見もありました。ですが、『SUVの基本性能の高さとスタイリッシュクーペの世界観の融合』というコンセプトのもとでこのクルマのベストバランスを実現させるためには絶対にこれが必要だと、何度も何度も周囲を説得しました」
「リヤシート以外にも、クルマ全体として日本車らしい心遣いを意識していて、たとえばサングラスホルダーも上に付けるのが普通ですが、それでは最近の大きなスポーツサングラスが入らないのでフロアコンソールに大きなものを作って使いやすくしようとか、本当に細かい部分まで考え抜いて、あきらめずに実現させています」(林さん)
「開発サイドからみれば、重量が増えるスライド&リクライニング機構は、できれば避けたいなと考えるのはごく普通のことだと思います。軽くシンプルにすればするほど、クオリティも楽に上げられますし、重量が少なくなれば、走行性能をはじめ、ほかの色々な性能が際立ちます。それでもこのクルマにとっては、スライド&リクライニング機構は大きな価値なのです。ならばできるだけ軽く作りながら、プラスアルファのアイディアで、総合的に重量増のデメリットがない工夫を必死で考えようと。エンジニアたちのそういう努力があちこちに込められたクルマです」(粟野さん)
都会でも映えるスタイリッシュなデザインながら、SUVとしての本格的な走行性能を備えていることも魅力のひとつだ。最低地上高はもちろん、アプローチアングルやディパーチャーアングルなどもしっかり確保。こうしたサイズを実現すると、シルエット全体がどうしても腰高な印象になりがちだが、新型エクリプス クロスのデザインにはそうした印象が見られない。
ここでちょっと試していただきたいのだが、このクルマのサイドビューを、まずは上半分のキャビンを隠して眺めてほしい。まぎれもなく本格的SUVに見えるだろう。次に下半分を隠してご覧いただきたい。そこに見えるのはスタイリッシュクーペのシルエットだ。最後に全体として1台を見てみると、上下でこうした特徴を備えながら、一切の破綻を見せることなく、美しくまとまっていることがわかるだろう。
「4WDモデルにはすべてS-AWCが搭載されています。四駆の走行性能も三菱の伝統でありプライドです。S-AWCは、1936年に三菱グループとして初めて四輪駆動車を試作して以来の歴史と、蓄積された技術の結集です。ハンドリングからブレーキ、アクセルのフィーリングまで徹底的にこだわってチューニングしてあります。意のままに運転できて、自分の思い描いたラインをぴたりとトレースできる。安心感もあって、実際のスピードよりもゆっくり感じるのではないかと思います。これぞ三菱だよねという乗り味です。ぜひ体感していただきたいですね」(山内さん)
新しくなったCVTや、新型の1.5L直噴ターボエンジンも、注目すべきポイントだ。高い信頼性を確保するため、35台のテスト車両によって、地球70周にも相当する延べ280万kmという実走行テストを実施したという。
「アメリカやヨーロッパなど、さまざまな場所で走らせました。過酷な極寒の地で、エンジンが冷え切った状態から何万キロも連続して走らせるといったこともやっています。われわれはリアルワールドと呼んでいるんですが、やはりベンチテストやテストコースだけでは気付かないことが必ずあるんです。お客さまが走る可能性のあるシチュエーションをすべて実際に走ってみるといった勢いで臨みました」(山内さん)