配車アプリ「ウーバー」の影響も大きい
ニューヨーク市内を走る“イエローキャブ”と呼ばれるタクシー車両(以下イエローキャブ)は、2011年に日産のNV200が2013年から10年間独占的に供給することが決定した。その後この独占供給の決定差し止めに関する訴訟が起こされ、2013年にニューヨーク州地裁が計画無効の判決を、そして2014年にニューヨーク州高裁が地裁判決を覆し、2015年にニューヨーク州最高裁判所がNV200の独占供給を認める判決を出したが、この判決には拘束力はなく、いまでも、カムリ、RAV4、ハイランダー、プリウスV(日本名プリウスα)といった、トヨタ系モデルのハイブリッド車を中心にNV200以外の車両が多数市内で営業を続けている。
そして現地報道によると、6月13日にニューヨーク市がNV200の独占供給の規約を見直したことを発表した。つまり、ニューヨークのタクシードライバーは、完全自由にNV200以外の車両をタクシー車両として選ぶことができるようになった(30車種ほどのリストアップ車両の中からとなる)。
報道によると、近年利用が目立っているウーバーなどの配車アプリに押され気味のタクシー業界の活性化が、今回の独占供給の見直しにつながったとしている。アメリカで聞くとウーバーでクルマを呼ぶと、カムリや同等クラスのクルマが多いとも聞く。つまり、配車アプリで使われているクルマに比べると、ライトバンスタイルのNV200は見劣りがするということがあるらしい(おまけにウーバーなどの配車アプリの利用料金は安いしチップもいらない)。
ニューヨークでは長いこと、排気量5リッター級のフルサイズセダン(最後のほうではフォード・クラウンビクトリア)を使用していた。しかしその後プリウスがタクシー車両として普及すると、ハイブリッドというだけでなく、単純に4気筒エンジンとなり排気量が一気にダウンサイズしたので、ガソリン消費量が一気に少なくなり、ドライバーはその点のメリットを重視してハイブリッド車をタクシー車両に使うようになっていった。しかしNV200は将来的にはEVへのコンバートも可能としていたが、現状ではハイブリッドすら設定がないのも見直しに影響しているのかもしれない。
もともと、2011年のNV200の独占供給が決まるまで競い合ったフォードが、独占供給が決まったあともニューヨーク市へ強力なロビー活動を展開していたという話がまことしやかに流れている。そんな動きもあったのか、今でもニューヨーク市内を走るタクシー車両では、NV200以外のモデルの大活躍が続いてる。
フォードが“ちゃぶ台返し”を画策していたとすれば、イエローキャブで目立ってくるのが、フォード車であってもおかしくない。しかしいまでは少々古くなったエスケープハイブリッドのタクシーが走っているぐらいであまりフォード車は見かけない。
フォードはトランジット・コネクトという車種にハイブリッドをラインアップしており、やる気満々なのは確か。ただし、ここのところファイナンス部門の不振(ローンの焦げ付き)なども顕在化していたとの話もあり、レンタカーも含めてフリート販売には消極的な動きを見せていたので、イエローキャブ車両のなかではトヨタの一強体制が目立っていた。
フォードは一部を除き、乗用車の北米生産を取りやめる発表もしており、“選択と集中”を進める事で体力強化をめざそうとしているようなので、今後はトランジット・コネクト・ハイブリッドでイエローキャブの主導権を握ろうとしてくるかもしれない。
気になるのは、見直し前でも州最高裁の判決があるものの、NV200の独占供給が形骸化していたのに、ダメ押しでニューヨーク市がなぜこのタイミングで見直しを行ったかである。現状ではイエローキャブで目立つのはカムリ・ハイブリッド、プリウスV、RAV4ハイブリッドなので、配車アプリで使っている車両と比べても遜色はない。“誰かが”意図的に車両を自由に選べる(推奨車種内で)“お墨付き”を与えようとしたのではないかと考えると、なかなか今回の決定は興味深いものに見えてくる。
ニューヨーク・タクシー&リムジン・コミッションのウェブサイトには、タクシー車両としてコミッションが承認した車両30車が掲載されている。
30車種のなかで期待値もこめて注目したいのがヒュンダイである。ヒュンダイは世界市場でタクシー車両のフリート販売を得意としている。“どぶ板営業”ともいえるその貪欲なまでの営業力は、知るひとぞ知るといったものなのである。
リストにはソナタと同ハイブリッドがラインアップされている。ヒュンダイは北米市場における販売競争では“ひとり負け”ともいわれるほど苦戦が続いている。すでにレンタカーへのフリート販売を派手に行っており、今後はニューヨークを皮切りにタクシー車両のフリート販売に手を出してもおかしくない状況にある。
ニューヨークだけでなく、全米のほかの都市でもプリウス系を中心にタクシー車両として存在感を見せるトヨタ(ハイブリッド車)だが、ヒュンダイがこのタイミングでタクシー車両販売に積極的になる勝機がないわけでもない。
それはタクシーのEV化である。ニューヨーク市は2020年までに全タクシー台数の3分の1をEV化したいとしている。ハイブリッド車では強みを見せるトヨタだが、EVに関しては出遅れ感が否めない。ヒュンダイはすでにiconic(プリウスキラーとして登場、HEVやPHEVもラインアップする)などでEVを市販しており、トヨタより強みを見せている。
ソナタでもiconicのユニットを共用すればEVの設定はそれほど難しくない(現状でもPHEVもラインナップしている)。アメリカでもニューヨーク以外の都市でもタクシーのEV化は今後進んでいくだろう。繰り返すが、ヒュンダイのフリート販売力はかなりのものなので、EV化まで見通してこのタイミングに打って出てきた可能性は十分ある。
ここ数年はニューヨークのイエローキャブでは、トヨタの一強状態が続いている。この状況が今後も変化しないのか、それともトヨタ以外のブランドが勢力を増してくるのか、今後の状況次第で今回の見直しの背景に何があったのかが見えてきそうである。