開発に着手する時点で強く反対する人が居なかった
自動車という商品は膨大な開発コストが掛かる。新型車を出すとなれば、最低でも数百億円の投資をしなければならない。当然ながら企業にとって大きな勝負といってよかろう。しかし発表したクルマを見た瞬間に「誰が買うのか? 失敗作でしょう」と思うことも少なくない。なぜ売れそうにないクルマを出すのだろうか?
複数の自動車メーカーの広報や車両企画担当に直球で聞いてみた。皆さん公式な見解としては「売れると判断して企画したけれど予想が外れたということです」と口を揃える。しかし「メーカー名を出さないです。ここから雑談ということで」と話を聞くと、なかなか興味深い。もっとも多かったのが「私も売れないと思うことだってあります」。
自社の新型車については口を濁す広報も、ライバルメーカーが売れそうもないモデルを出すと「どうしちゃったんでしょうね」とコメントする。総合すると、皆さん新型車を見て
1)売れそうだ
2)売れるかどうか解らないけれど興味深い
3)微妙
4)絶対売れないと思う
くらいの分類をする傾向。おそらくクルマ好きも同じだと思う。
ここで問題になるのは、4)の絶対売れないようなクルマを出すケースだ。メーカーのホンネを聞いてみると、共通して「この5年ほど、忖度したんじゃないかと思うことが多くなって来ました」。発言力の強い役員クラス(さらに上のこともあるようだ)の意見に誰も異論を唱えないのだという。政治家やスポーツの監督と同じ?
ホンダに『ジェイド』というミニバンがある。3年前の2015年に発売された時の月販販売目標は3000台。月販目標は、一般的に発売後3年目くらいまでの平均台数を示す。3年で10万台くらい売るつもりで開発したということ。発売された直後、私は「絶対に売れない」と書いた。ライバルと比べ高価だし、クルマとしても狭い。
実際どうだったか? 発売した2015年こそ新車効果(出た直後はどんなクルマでも売れる)により月販1000台程度売れたものの、2016は年月販平均500台ヘダウン。2017年になると月販平均160台。3年間で2万1244台という結果になっている。ジェイド、出た時に多くのホンダ社員も「売れないでしょうね」と言っていた。
なんで売れないと思えるクルマが出るのだろう。当時の経緯を調べてみたら、開発に着手する時点で強く反対する人が居なかったそうな。確かにクルマという商品、売れるかどうか予想するのは難しい。企画会議で実力のある役員が「こんなコンセプトの新型車なんかどうか?」と発言したら、作る方向で考えてしまうワケ。そもそも強く反論したら、異動させられるか冷や飯を食わされることを考えなければならない。
ホンダの場合、OBに聞くと「伝統的に”わいがや”という雑談のような会議がホンダの文化で、ポジションに関係無く自由闊達な話になった。役員に噛み付く平社員も多かったですよ。でも終わったら酒飲みに行っておしまい」。
それが最近は役員に直接異論をぶつけられるような社内の雰囲気がなくなっており、どうしてもTOPダウンになりがちだという。さらにTOPの感性が良ければいいけれど、市場を解っていないと誤ったな判断をしがち。ジェイドの場合もOB曰く「ストリームの後継車として売れば、乗り代えるお客さんも多いんじゃないか?」となったらしい。
考えてみれば最近の我が国は役人から政治家、スポーツ、さらに企業に至るまで反論しにくい雰囲気になってきた。もちろんチームワークは重要ながら、独裁体制や仲良しクラブになってしまっては良い結果を出しにくい。やはりバランス感覚と優れた統率能力を持つリーダーが必要。意識改革しなければならない時期を迎えたかもしれません。