EVに続き日本メーカーは「L」化でも遅れをとっている印象
今回の北京モーターショーにおいて、メルセデス・ベンツは予告通りにメルセデス・ベンツAクラスセダンをワールドプレミアさせた。さっそくメルセデス・ベンツブースへ行き、展示車の化粧プレートを見て驚いた、「A-Class L Sport Sedan」と記してあったのだ。リヤにまわると、“北京奔馳”という漢字プレートが装着されていた。
中国において外資ブランド車に漢字プレートがあると、それは現地合弁会社製造の証となる。メルセデス・ベンツの乗用車は北京汽車との合弁会社である、“北京メルセデス・ベンツ”で生産されている。そして中国において車名に“L”と入っていると、標準車よりホイールベースが延長されていることを示すのだ。
Aクラスセダンはハッチバック比で、60mmホイールベースが延長されている。ただこれを持って“L”とは名乗っていないようだ。つまり、今回ワールドプレミアされたのは、あくまでAクラスセダンのロングホイールベースモデルということのようだ。つまりAクラスセダンの標準ホイールベース車は別に存在し、今後ワールドプレミアされると考えられるのだ。Aクラスセダンは、中国以外でもメキシコや欧州での生産も予定されているので、北米もしくは欧州のメジャーオートショーでワールドプレミアされるものと考えられる。
また今回の北京モーターショーではアウディがQ5より88mmホイールベースを延長した“アウディQ5L”をワールドプレミアした。こちらは中国でアウディ車の現地生産を行なう、第一汽車との合弁会社“一汽アウディ”が生産を行う。
中国ではセダンを中心に、世界市場で販売されている仕様よりホイールベースを延長した、ロングホイールベースの人気が高い。しかもただホイールベースが長いだけではダメであり、リヤビューにアウディQ5Lのように、車名末尾に“L”がついていないといけないのである。
そもそもこの“L”ブームを仕掛けたのはアウディである。世界市場ですでに新型が登場しはじめているので、先々代となる“C6”系アウディA6に“A6L”がラインアップされたことで、一気に人気に火が付いたとされている。またアウディがこのモデルをラインアップさせたのは、先代レクサスLSで“LS460L”などとしたのがヒントになっているともいわれているが、これについては真偽は定かではない。
A6Lが登場後、アウディならA4L、メルセデス・ベンツならEクラスやCクラス、BMWは3シリーズと5シリーズなどに、あっという間にロングホイールベースモデルがラインアップされ、“L”が車名バッジについた。その後もボルボ、キャデラック、シトロエン、ジャガーなど欧米車を中心に“L”モデルは増えていった。
それではなぜ中国でロングホイールベースモデルがウケているのだろうか? それならアウディQ5LではなくQ7を買えばいいのではないか? と疑問を持ってしまう。
中国では企業や政府関係機関などで、職務上の移動用に多数の運転手付きの公用車が用意されている。単に仕事での移動だけでなく、朝夕の通勤の送り迎えなどにも使われる。一定以上の社会的ステイタスのあるひとは、クルマを運転するというよりは、“クルマの後席に座って移動する”というシチュエーションのほうが多く、それがまたステイタスの証ともなる。そのため延長されたホイールベースの多くは、後席で足を組んでも窮屈でないように、後席足もとスペース拡大に使われるのである。
しかも、会社などの組織の役職によって、社用車として使える車両クラスが明確に決まっているのだ。公官庁などでは排気量によっても明確な線引きがされているとのことである。そのようなこともあり、A4などのDセグメントクラスでも小排気量ターボエンジンを搭載し、ロングホイールベースモデルが設定されているという話も聞いたことがある。
それでは日系ブランドも追随しているのかといえば、一向に“Lモデル”のラインアップに積極姿勢を示す気配がない。
直近では2017年春の上海モーターショーでアキュラTLX Lのプロトタイプがデビュー、同年秋の広州ショーで市販版がデビューしているぐらいで、あとはインフィニティ車の一部に“L”モデルの設定がある。それなりにラインアップも目立ってきたが対応が後手にまわっているイメージは否めない。
またロングホイールベースそのものがないというわけでもなく、“L”と車名になぜかつけたがらない(あくまで筆者私見)ようにも見えてしまうのだ。たとえば中国では現地合弁会社の東風日産で生産されるティアナ(天籁)に対して、ロングホイールベース版があるのだが、“ティアナL”、とはせずに“ティアナVIP(天籁・公爵)”と名乗っている。
もともと日産の最近のセダンは中国市場も意識しているのか、全般的にホイールベースが長めで後席足もとがゆったりとしているのが、どのクラスでも特徴的となっている。しかし、スペックとしてホイールベースが長めになっているだけでなく、車名に“L”がつかないと、やはり中国の消費者には“グッと”くるものはないようで、販売現場でも“L”が車名につくロングホイールベースモデルを欲しがる声は少なくないとも聞いている。
ある中国新車販売に詳しいひとによると、「日系メーカーの中国サイドからも、ロングホイールベース車については日本のヘッドクォーターへ報告をしているようですが、“L”と名乗るか名乗らないかの前に、ロングホイールベース車自体の必要性もなかなか理解されないと聞いたことがあります」と語ってくれた。
今回の北京モーターショーはEVに脚光が浴びるものとなっており、その面での日系ブランドの出遅れを指摘する報道を多く目にすることができたが、それ以前に中国市場の新車販売のトレンド全体をつかみきれていないまま販売を続けてきている点も目立ってきている。
日本と異なり、まだまだ伸びしろのある新車販売マーケットとなる中国では、トレンド変化のスピードも速いのだが、それに日系ブランドは追いついていない(腰が重く対応できていない)イメージを強く感じる。
アウディA6Lに始まる、“L”のつくロングホイールベースが登場しはじめてからすでに10年ほどが経過しようとしているのに、積極的に対応する様子が感じられないのはそのいい例といえよう。このままいくと、沿岸部の大都市を中心に日本車離れというものが起きても不思議ではないといっても過言ではない。
今は統計的には好調に見えるが、中長期的に見れば日系ブランドは不安要素のほうが目立っているのである。