中国随一の高級車ブランド「紅旗」が小型SUVを出す衝撃! 背景にある他国とは違う事情のSUV人気

まだまだ道路事情が良くないためにSUVが「必要」

 中国第一汽車の“紅旗”ブランドは中国人民にとってはある種特別な存在となっている。

 紅旗ブランドは1950年代後半に国家の要人専用車を発表した由緒あるブランド。その後改革開放経済下になっても、アウディやクラウンベースなどのモデルをラインアップしていたが、2014年にブランドデビュー当初のモデルの復刻版ともいえる車種がデビュー、習近平国家主席をはじめとする、政府要人車両として使われている。わかりやすくたとえれば日本ではセンチュリー(もっとステイタスは上だが)あたりに相当すると考えてもらえればわかりやすい。

 民生版ともいえる高級セダンも多くラインアップしている紅旗ブランドだが、今までもコンセプトカーとして、大型SUVやマイクロバスなども中国のモーターショーで出品していた。

 しかし今回はなんとコンパクトクロスオーバーSUVのコンセプトカーを展示。その名は“紅旗E-HS3”。紅旗としては異例ともいえるカジュアルスタイル(それなりに)のコンパクトクロスオーバーSUVは、ピュアEVとなる。

 先ほどはセンチュリーを例えとしたが、“ロールスロイスがコンパクトSUVを出した”ぐらいのインパクトが中国人民にはあるといっても過言ではないだろう。

 いつもなら、第一汽車総合ブースの片隅に、紅旗ブランドブースがこじんまりと構えられていたが、今回はかなりの面積を持つ独自ブースを展開。「何かある」とは思っていたが、まさかコンパクトクロスオーバーSUVが置いてあるとは思ってもみなかった。

 しかしターンテーブル上には、大型クーペのコンセプトカーや大型セダンのH5が展示されており、E-HS3は、そのまわりに控えめに展示されていたのが印象的であったが、来場者の反応は上々といったところで、かなり注目されていた。

 ボンネットの先端センター部には、紅旗ブランド共通の赤いフェンダーマスコットのようなものがつけられており、さらに政府要人向け車両をイメージしたグリルなどを採用し、紅旗らしさを強調している。コンセプトカーとはいうものの、プロトタイプに近い完成度を見せると思っていたら、年内に正式発売予定との報道がその後あった。さらにはE-HS3の兄貴格ともなる“E-HS5”の開発も進められているという情報もある。

 ただEVのみとなるかは微妙なところで、ガソリンターボエンジン仕様もラインアップされるようである。

 以前、中国人の若い女性に欲しいクルマを聞くと「BMWのSUV」と答えたので、その理由を聞くと「ブランドステイタスが高く、目線も高く見下ろすような運転感覚がいい(あくまで本人談)」と答えてくれた。

 中国でのSUVの販売台数が多いのは、単なる流行や押しの強さを好む中国人気質だけが理由ではない。沿岸大都市の道路環境はだいぶ整備されているが、全中国レベルで見れば道路環境は決して良いものとはいえない。雨が降れば道路冠水が随所で発生するのは当たり前。また主要幹線道路の整備が行き届いても、自宅から幹線道路へ出る、”ファースト1マイル”が未舗装だったりして、かなり状態が悪いことも多いので、セダンより腰高なSUVが実用上も好まれるようなのである。

 かつて華北地方の都市へ行ったとき、地元の富裕層は道路環境が良くないこともあるのかポルシェ・カイエンやレンジローバーなど、セダンではなく高級SUVばかり乗っていた。つまり必要に迫られて腰高で最低地上高の高いSUVを選択して乗っているという面も、中国ではSUVの販売台数が多い背景にはあるのだ。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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