初代を超える衝撃と感動を! 新型レクサスLSのプロジェクトを任された開発責任者の思いとは

走りとくつろぎを両立する唯一無二のフラッグシップへ進化

 1989年に登場した初代レクサスLS(日本名:セルシオ)は、レクサスブランドの礎を築いたというだけでなく、日本人ならではの細やかな視点や配慮が随所に息づく、「高級車の新しい概念」を打ち立てたモデル。極めて大きな衝撃をもってマーケットに迎え入れられた初代LSだが、5代目となる新型LSの開発責任者を務めた旭 利夫さんも、当時、初代から大きな衝撃を受けたひとりだった。

「当時の私は大学院で電子工学を学ぶ学生でした。あのクルマを見たときのインパクトは今でもありありと思い出せます。こんな美しいセダンを作るメーカーがあるのかと。当時はまだ高級車の世界でもそれほど重視されていなかった『静粛性』や、高品質オーディオの素晴らしいサウンドを車内に心地よく響き渡らせるという新しい概念を導入しましたし、さらには本来なら相反するはずの静粛性と動力性能というふたつの要素を高次元で両立させているのも驚きでした」

「世界初のオプティトロン(自発光式)メーターの搭載といった先進性にも目を見張りました。このクルマ一台を開発するために士別にテストコースまで作ってしまったエピソードからは、作り手の想いの強さに打たれました。自分もこんなクルマを作る会社で仕事をしたい。じつはそれがトヨタに入社を決めた理由です。ある意味、自分の人生を決定付けたクルマと言っていいかもしれません」

 そんな旭さんに向け、新型レクサス開発に際して豊田章男社長から発せられたのは「初代LSの衝撃を超えるクルマを作ること」というメッセージだった。

「ものすごく重みのある言葉でしたね。そのためには、どんなクルマであるべきか。すごく悩み、考え抜きました。確かに歴代LSは、初代が作った新しい価値を継承しながら、その価値を時代に合わせて高めてきました。ですが、競合他社のレベルアップもあり、私自身も以前ほどの優位性がなくなっていると感じていたんです」

「LSって、すごくいいクルマだけど、優等生過ぎるせいか、ワクワクが少し足りない気がすると、よく言われたりします。やはり目指すべきは、心からワクワクできるような、そんな感動を提供できるクルマ。そのためには大胆に変わるべき。初代が高級車の新しい概念を作ったように、われわれも従来の常識や枠にとらわれることなく、独創的でエモーショナルな魅力を備えた、このクルマだけにしかない新しい価値観を備えたフラッグシップにしていきたい。そんな想いで開発をスタートさせました」

 初代を超える衝撃と感動。その実現のために、開発チームは4つの領域を重要な柱と位置付けた。まずひとつ目は「Brave Design(挑戦するデザイン)」だ。目指したのは、フラッグシップの威厳や風格が感じられながら、色気のあるしなやかで流麗なシルエットを備えたデザイン。相反するふたつの要素の両立という初代LSのDNAを継承しながら、従来の高級車の概念を覆すエモーショナルなデザインに挑戦している。

「昔は伝統的な3ボックスデザインが主流だった高級車のカテゴリーですが、現在ではそれに加え、クーペ的なデザインも登場しています。その両者をラインアップしてお客さまの要望に応えるというのが今の自動車メーカーの一般的なアプローチだと思います。けれど、レクサスは果たしてそのどちらかに追従するだけでいいのか。フラグシップならではの居住性を備えながら、流れるようなデザインのカッコいいクルマがあってもいいんじゃないか。われわれはそんなふうに考えました。そんなクルマは世のなかにないけれど、でも、どんなにハードルが高くても、レクサスのフラッグシップが目指すべきはそこだろう。新型LSのデザインは、そんな議論の末に作り上げたものなのです」

 2本目の柱は「Exhilarating Performance」。歴代LSが守り続けてきた優れた乗り心地や静粛性、滑らかな走りなどの快適性に加え、乗員がワクワクするような気持ちのいいエモーショナルな走りにもこだわった。

「ステアリングを切ったときのレスポンスのよさ、正確さ、リニアリティなどはとくにこだわった部分です。従来のLSでは快適さを重視した柔らかな乗り心地を狙っていますが、そのため、長距離を走ったときには少しだけ疲れを感じてしまうことがありました。新型では、操縦安定性の向上を含め、路面にぴたっと吸い付くような走りを目指しました」

「レーンチェンジのときもお釣りがなく、ぴたっと収まる走り。乗員の頭が揺れずに長距離移動でも快適で、加速、変速、ステアリング、ブレーキという一連の動作が気持ちよくコントロールできる、すっきりと奥深いドライビングフィールを実現しました。静粛性については、普段使いの走りでは先代以上の静けさが感じられるけれど、意志を持ってアクセルを入れたときには心地いいエキゾーストサウンドが体感できる味付けになっています。そんな相対的な走りの気持ちよさにも注力しました」

 新型LSでは、プラットフォームも新型が採用されており、それは今回の走りの進化には欠かせない要素になったという。

「先にデビューした新型LCでも採用しているプラットフォームですが、開発は新型LSと並行して行われました。台数的にはLCよりもLSのほうが圧倒的に多いため、LSをかなり重視して開発しています。慣性諸元をしっかり造り込むことを根幹の考え方とした、重心に非常にこだわったプラットフォームです。重いものはできるだけ車両の中心に持っていき、車両の外側は極力軽くする。車両の外板やフード、ドアなどはアルミ化によって軽くし、エンジンのような重量物は搭載位置を下げて、フロントミッドシップのレイアウトを実現しました」

「慣性諸元に加え、ボディ剛性も大きく向上させています。たとえばサスペンションタワーをアルミのダイキャストに変えたり、床下にプレスをしっかり通したりといったことを行っています。慣性諸元と剛性にこだわることで、走りの一体感に挑戦したんです。新型プラットフォームがなければ、今回の走りの狙いは実現できなかったと思います。とはいえ、それがあったから楽に開発できたというわけでもないんです。特殊な溶接の点数を増やしたり、接着剤などの細かい部分についても数値に表れないような小さなことを剛性の向上が体感できる域にまで積み重ねたりなど、あらゆる領域でひとつひとつ地道に積み上げるという作業を行っています」

 そして3本目の柱は、「Imaginative Technology」。世界トップクラスの先進安全技術と革新的コクピットを融合し、レクサスならではのおもてなしによって、人とクルマが協調するベストパートナーとなるクルマを目指した。

「ここではふたつのポイントにこだわっています。ひとつは交通事故死傷者ゼロを究極の目標に、そのための技術をフラッグシップとして世界最先端のものにするということ。もうひとつは、そうした技術をお客さまに押し付けるのではなく、人に寄り添う先進技術とすることで、世界でもっとも安全・安心で快適なドライビングが提供できるクルマづくりをしていくことです」

 新型LSでは、世界最大となる24インチのヘッドアップディスプレイを採用しているが、これも飛び道具的に「世界初の大きさ」を狙ったようなものではなく、ドライバーに「寄り添うための必然」として導入されたものだ。

「クルマの状態や、この先のカーブの状況、プリクラッシュシステムによる歩行者への注意喚起など、予期しない形で表示してドライバーを驚かせてしまうことのないように、まるでクルマと対話するかのように意思疎通をはかりながら認識できることを目指しました。そのためにはどうしてもこれだけの大きさのディスプレイが必要で、それが結果的に世界初となりました」

 ちなみに新型LSでは、先進安全技術をより安全なものとするため、日本全国の自動車専用道路をすべて走るという検証まで行っている。初代LSが開発のためにテストコースを作ってしまったことを思い起こさせるようなエピソードだ。

 そして最後の柱が「Takumi Craftsmanship」。日本の伝統工芸や匠の技術と、レクサスのモノづくりの原点である田原工場の匠の技術によって、他に類をみない魅力を備えた内装デザインを目指した。

「日本各地の匠の方にマスターピースを作ってもらい、匠の監修のもとで、それを実際の製品の形に落とし込むというチャレンジをしました。繊細で美しい匠の技を、どう工業製品として再現するか。最初からむずかしいことは想像していましたが、作ってもらった作品を最初に見たときは、本当にこれが実現でできるのかとさえ思いました」

「完全にゼロから作る未知のものですから、どれだけの工程数を踏んで、どれくらいの手間をかければ量産化できるかもまったくわからない状態でのスタートでした。しかも、開発段階が進めば進むほど、その難しさがじわじわとわかってくる。正直、とんでもないことを始めてしまったぞという気持ちもありましたが、その美しさは絶対にやる価値があるものだと考えました。LSは妥協を許さないクルマです。そんなLSだからこそ実現できた表現だったと思います」

 新型LSの開発を振り返り、すべてをやり切ったプロジェクトだったと語る旭さん。

「新型LSは、お客さまが走りを楽しみたいときもくつろぎたいときも、どのような瞬間も感性を刺激する、唯一無二のフラッグシップモデルに生まれ変わりました」と言って、自信に満ちた笑顔をみせてくれた。


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