駐車場事情や現在流行の小排気量ターボが理に適っている
2017年、日本国内における新車・乗用車の販売台数は、軽自動車が144万3367台(前年比107.3%)、登録車(小型車・普通車)が294万3010台(同105.1%)。2017年に新車販売された乗用車の1/3は軽自動車となっている。
こうしてシェアを拡大しているのにはいくつかの理由があるだろうが、維持費が有利というのは少々疑問だ。そもそも軽自動車が税金や高速料金など維持費の面で有利なのは、昭和の時代から変わっていない。もし維持費のメリットが売れている理由だとすれば、20年前と比べて軽自動車の人気が伸びていることは説明できない。
おそらく平成に入ってから、2度の規格拡大(1990年、1998年)、ハイトワゴンの登場(スズキ ワゴンRが大ヒットした)、スーパーハイトワゴンの登場(ダイハツ タントが先鞭をつけた)といったカテゴリー全体の商品性を上げる事象があり、そして現在のホンダN-BOXが日本一売れているという状況につながっているのだろう。維持費が安くても我慢を強いられるのでは買いたくないというユーザーも、今の軽自動車であれば納得してファーストカーとして愛車にできるようになったことも見逃せない。
また、さまざまな要件からクルマが大きくなる中で、軽自動車の大きさは一定という点も好調なセールスには貢献していると思われる。モデルチェンジごとに車体が大きくなってしまう中で、全長3.4m、全幅1.48mという大きさに収まっていることがある意味で保証されている軽自動車は、駐車スペースなどが限られた環境においては安心材料になる。
そんな軽自動車だが、しばしば排気量拡大の話が聞こえてくる。排気量に余裕があれば、結果的に燃費などの環境性能にも有利になるはずだ、というのがそうした主張を支えている。しかしながら過去には軽自動車に大きめのエンジンを積んだモデルが存在していなかったわけではない。
たとえば、軽自動車ボディに1リッターエンジンを搭載したダイハツ・ミラジーノ1000というモデルもあったが、燃費でもパフォーマンスでも、それほどのメリットがあったという記憶はない。むしろ、ダウンサイジングターボのトレンドからすると660ccターボを進化させた現代の軽自動車のほうがトルクフルで乗りやすい面はあるかもしれない。
もうひとつ、電池の生産性が上がり、コストが下がってくると、近距離ユースの多い軽自動車は電気自動車にシフトする可能性がある。そうした現状と将来像からすると、排気量を上げるという規格変更は考えにくいといえそうだ。
それに、フォルクスワーゲン・ゴルフなどのCセグメントが1.2~1.4リッターターボ、Bセグメントのポロが1リッターターボを搭載していることからすると、Aセグメントの中でも小さいボディの軽自動車が660ccターボというのは、結果的にライトサイジングエンジンを得たといえるかもしれない。
軽自動車という規格下にあって、大きさの変わらないボディと排気量を660ccに制限されたエンジンによって構成されているが、モデルチェンジごとに使い勝手やハンドリングといったトータルでの性能をアップさせてきたことが、確固たる支持を集めているのだろう。グローバルモデルにはない、日本専用にアップデートしてきたメリットが大きくなっているという見方もできよう。
もうひとつ、政治経済的な視点でいえば、軽自動車というのは日本独自の規格であり、しかも比較的利幅の小さいカテゴリーであるため、海外で生産するというインセンティブがわきにくい。個々のメーカーはもちろん、自動車産業全体としてみても国内の生産拠点を一定規模で維持するためには軽自動車が売れるということはプラスである。
ユーザーがそこまで考えてクルマ選びをしていることはないだろうが、軽自動車を生産しているメーカーとしては「軽自動車を売ること」は重要だ。そのためには各社が企業努力をすることになる。これもまた軽自動車が売れている理由として挙げられそうだ。