絶好調ホンダN-BOXを手放しで喜べない「販売現場の不安要素」

確かに売れているがホンダ車の場合「共食い」が多い

 全国軽自動車協会連合会の統計によると、2018年2月の車名別軽四輪車の販売ナンバーワンはホンダN-BOXとなり、2万2005台であった。N-BOXは登録車との合算統計(含軽統計)でもナンバーワンとなっている。2017暦年での年間販売台数は21万8478台となり、ここでも軽四輪車だけでなく含軽統計でもナンバーワン。もはや“国民車”と呼んでもいいレベルのヒット車となっているN-BOXだが、実態はそんなに手放しで喜べる状況でもないのである。

N-BOX

 N-BOXの大ヒットでホンダの販売現場はさぞかし盛り上がてっているかと思えばそういうわけでもない。ホンダの販売現場では”一強多弱”といった様相を呈しているからである。ホンダの販売現場でしばしば囁かれるのが”共食い”だ。

 N-BOXのようなヒット車がいままでも数多く登場してくるのだが、その際は当然ライバル車の購入希望者も取り込んでいる。だが、それよりも顕著なのが、同じホンダ車、つまり既納客がN-BOXなどのヒット車へ代替えするケースなのだ。

 N-BOXでいえば近年のダウンサイズ傾向の高まりもあり、フィットやフリード、さらにはステップワゴンのユーザーまでもがN-BOXへ代替えする動きが顕著だとのこと。このような動きが“共食い”などと表現されるのである。もちろんこのような動きはホンダディーラー以外でもあるのだが、代々ホンダ系ディーラーの“お家芸”とでもいうべき内容で顕在化しているのだ。

「ホンダ車からホンダ車への代替えなのだから問題がないのでは?」と考えられる方もいるだろうが、ステップワゴンなどの登録車から軽自動車へ代替えされれば当然利益は薄くなってしまう。

 また、この共食いが解消されない背景として考えられるのは、セールスパワーが弱いために、表現はやや乱暴だが売り分けることができず、お客の言いなりとなる販売活動になってしまっているという、ホンダ販売現場のアキレス腱ともいうべきものを露呈してしまっているのである。

 トヨタは“販売のトヨタ”ともいわれるように圧倒的な販売力を誇っている。そしてもちろん看板となる人気車はあるものの、ミニバン、SUV、セダン、コンパクトカーなどバランスのとれた販売を行っているのが統計数値から見てとることができる。

 ディーラーの店頭にやってくるお客はレベルの違いはあれど新車購入意思をかなり固めているのが当たり前とされている。ただ最近は購入本命車を決め打ちしないで来店してくるケースも目立っているとのこと。「お店にこられてもそこでどんなクルマを売っているかわからないお客様も多いですね」とは現場のセールスマン。

 ホンダのディーラーにやってくるお客のなかでも知っているクルマがN-BOX(これだけ販売しているので知名度はかなり高い)くらいしかないので、セールスマンに「今日はどのおクルマを見に来たのですか?」と聞かれてつい出てきたのが「N-BOX」ということも多いだろう。そして話を聞けば、確かに良くできたクルマで、おまけに維持費も安い軽自動車なので、「これでいいか」ということにもなりかねない。

 ただそれではセールスマンは“売り子”に徹してしまうことになる。お客の様子を見ながら、あまり車種を決め打ちしていないなと判断できれば、ホンダならば「フィットやフリードというクルマもありますけど」と勧めて反応をみたりする。それがセールスマンの存在価値であり、本来の役目でもあるのだ。

 今どきN-BOXクラスなら、支払総額で200~250万円ぐらいは当たり前。優遇されている税金や保険料負担を除けば、そこで値引き条件の良いフリードの支払い条件を提示すれば、N-BOXと比べても買い得感で遜色がないので検討してもらえることも十分期待できる。

 今、世の中におけるクルマへの興味はかなり低い。そのため日系ブランドでも200車種ほどあるという新車のなかで、多くの人が車名を知っているモデルは両手で数えられるぐらいだけとも言われてている。その中の1台がN-BOXなのである。そのため、今どきの商談ではしばしば「こんなクルマはいかがですか」という車種紹介から始まることも多いのである。

 また、月販台数だけでなく、暦年締めや事業年度締めなどでも販売ランキングにこだわるあまり、人気車なのにダメ押しで、自社届け出を行ってナンバープレートを取得し、“届け出済み軽未使用車(未使用中古車)”の流通台数を増やしていることも販売台数を押し上げる要因となっている。これはライバル車でも動きは同じなのでN-BOXだけの話ではないが、販売実績がある意味“誇張”されているといっても過言ではない。

 日本で一番売れているN-BOXでさえ、それを手放しで喜べる状況となっていないのが、今の日本における新車販売の現状なのである。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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