独特の勤務体制がネコの行動パターンにマッチする
以前、運行管理者(事務所で働くひと)として短い間だが、タクシー会社に勤務していたことがある知人に話を聞いたことがある。そのひとの勤務先には二匹の野良ネコが住みついていたそうだ。
ネコが大好きだったこともあり、カニ蒲鉾などネコが好きそうなものを買い込み事務所の冷蔵庫で保管しながら、仕事の合間や当直勤務したときの夜などに野良ネコたちにご飯をあげていたということだ。
あくまで自分の行動範囲の中での話だが、タクシー会社の車庫に野良ネコが住みついているのを目にすることが多い。今回はなぜ野良ネコが住みつくのかを分析してみた。
まず考えられるのが日中は車庫に人気がないこと。タクシー会社の朝は早い。前出の知人が勤務していたころでも9時ぐらいまでにはその日の出番の乗務員はタクシーに乗って出庫してしまう。そこから真夜中まではパラパラと人がくることがあっても、ほぼひと気はないので、野良ネコたちは安心して昼寝ができるのである。
そして次はご飯がもらいやすいということだ。労働集約型ともいえる世界で、隔日勤務がメインのタクシー業界なので、保有するタクシー台数の倍は単純計算で乗務員がいることになる(実際はもう少しいたりする)。それだけ出入りするひとが多いので、当然ネコ好きなひとも多く、そのようなひとたちが入れ代わり立ち代わりで野良ネコたちにご飯を持ってくるので、食いっぱぐれることはない。
そして夜行性のネコと乗務員の勤務体制がうまいことマッチしていることも影響しているようだ。だいたい午前2時も過ぎるころから、その日の業務を終えたタクシーが帰りだしてくる。帰ってきたらまずはその日の売り上げの入金業務がある。入金を終えたら使っていたタクシーの内外装の洗車作業を行う。
長い時間お客さんを乗せたりしてクルマを運転してきたので、トラブルもなく車庫に戻ってこられた時、この時間の乗務員は緊張から解放され、非常にリラックスしている。万収(1万円以上のロング客)を当てたりして、売り上げの良かった乗務員などは上機嫌で仲間の乗務員と話が盛り上がっていたりする。
聞いた話では、稼ぎが悪かったころは肉体的なものに加えて精神的疲労も加わり、どっと疲れるそうだが、大当たりして(ロングが多かったなど)稼ぎが良かった時には、精神的充足感が高まり、肉体的疲労もどっかに飛んでしまうとのことである。あまりに盛り上がって大声になったりもして、早朝ということで住宅密集地などにある車庫ではしばしば近所から苦情がきたりもするそうだ。車庫周辺の路上駐車も問題化し、結局郊外の工業団地などに車庫を引っ越すこともしばしばあるとのこと。
この乗務員がリラックスする時間(深夜から早朝)はネコたちの数少ない行動時間帯でもある。もちろんご飯をもらうことを当て込んで、乗務員の声のする場所に集まってくる。乗務員が危害を加えないことをネコたちも知っているので警戒することなく、とくにご飯をよくくれる乗務員のところに集まったりするそうだ。強面な乗務員がネコを抱きかかえて癒されているなんてこともあるとのこと。
ただし、いま世間ではタクシー車両を無人運転化させようとさまざまな研究が進められている。いつになるかはわからないが、タクシーの運行が全自動化されてしまえば、野良ネコたちが車庫からいなくなってしまうことだろう。