雪道であまりに普通に走れるために過信して速度を上げると……
この10年、クルマのパフォーマンスに関わる部分でもっとも進化しているのはタイヤではないだろうか。ハイグリップとウエット性能を両立しているのは当然で、燃費性能までバランスさせているタイヤは少なくない。また、車両側でいえば電子制御によるトラクションコントロールや横滑り防止装置といったスタビリティを高める機能の進化はめざましい。
こうした進化は雪道でも実感できる。スタッドレスタイヤは大幅に進化しているし、車両側のスタビリティも電子制御により向上している。
舗装路と同じように走れるというのは言い過ぎかもしれないが、10年前の感覚でいえば「まるでサマータイヤ」のように安定して走ることができる。しかし、それは法定速度であったり、制限速度の範囲であったりというスピードレンジでの話だ。ちょっとでも無理をしてしまうと、やはりグリップの限界を越えてしまう。
タイヤがグリップを失ってしまうと、いくら電子制御の性能が高くてもフォローできなくなってしまう。そのためコントロール不能になってしまうことはある。そうして限界を越えてしまう速度域が、舗装路よりずっと低いのが雪道の危ないところだ。
それにもまして、怖いのはタイヤが滑り出したことがわかりにくいこと。タイヤが滑っているときには「キー」や「キャー」といったスキール音が聞こえてくるイメージもあるが、雪道ではスキール音がかなり小さく、雪を跳ね上げる音もあって耳に届きづらい。ほとんど聞こえないといっていいだろう。
そのため、タイヤが限界に近づいているというインフォメーションが少ない傾向にある。しかも、限界を迎える速度域が舗装路を走っているときよりも低いとなると、ドライ路面をサマータイヤで走っている感覚では予想もしない低いスピードレンジで唐突にタイヤがスリップし、クルマがコントロールできない状況に陥ってしまう。
低速でのグリップがしっかりしているため安心して走れるが、そのままスピードを上げてもドライのサマータイヤと同じように安定して走れるわけではない。そのあたりを勘違いして知らぬ間にペースアップしがちなのが、今どきのスタッドレスタイヤと最新の電子制御のコンビネーションによる危険な落とし穴だ。