乗員のクルマ酔いにも効果のあるe-POWERのワンペダルドライブ
さて、ここからはセレナe-POWERの走行性能が、ほぼ2リッターエンジンを動力源とするS-HVとどう違うのかについて報告したい。試乗したのはe-POWERのハイウェイスターVである。
ところで、セレナe-POWERにはドライブモードとしてエコ/ノーマル/S(スマート)モードが備わるのだが、ズバリ、セレナe-POWERならではのアクセルオフでの最大0・15Gの減速力が得られ、完全停止まで持っていけるワンペダル走行が可能なのはエコとスマートモードのみ。
なので、まずは市街地走行に適したエコモードで発進する。いかにモータートルクが瞬時に立ち上がるとはいっても、このモードは電費最優先。さすがに加速力は穏やか。とはいえ、とくにe-POWERのエンジンが始動する登坂シーンでは、S-HVとの動力性能差はe-POWERのほうが80kg前後重いのにもかかわらず、むしろ苦しげなエンジンノイズを放つ2リッターエンジンより静かに駆け上がってくれるのだ。
操縦性、ステアリングの応答性もまたセレナらしい、ファミリーミニバンとしてふさわしい穏やかなもの。しかしS-HVもそうだが、フットワークは想像以上にしっかりしたもので、山道を気持ちよく飛ばすことさえできる安定感、懐の深さを持ち合わせる。
セレナe-POWERはバッテリー積載によって重心が低まるため、15インチタイヤ装着でも絶大な安定感と、S-HVのハイウェイスターが苦手な、荒れた路面での足まわりのバタつきのないしっとりとした快適感ある乗り心地を両立。ここは大いに評価したいところだ。
ノーマルモードはブレーキングする機会の少ない高速走行に向いている。エコモードに対して2リッターエンジンを積むS-HV同等の動力性能が得られ、アクセルレスポンスが高まるものの、e-POWER最大の魅力である新しさのあるワンペダルが使えないため、開発段階で「必要か? 不要か?」と議論もあったいうモードだ。ちなみにノートe-POWERユーザーは大多数がエコまたはSモードで乗っているそうだから、これ以上の話は割愛。
で、セレナe-POWERからあえてスポーツではなくスマートモードと呼ぶようになったSモードで走りだせば、全域でのトルク感、アクセルレスポンスが劇的に向上(エコモードに対して)。右足とモーターが直結したかのような走りやすさがあり、交差点の右折などでも意のままにスッと前に出られる安心感さえ手に入るのだ。
そしてなんといってもエコモード同様の回生ブレーキによる、スムースな減速感が得られるワンペダルがもたらす新鮮なドライブフィールがe-POWERらしさ。およそ60km/h以下では最大0.15Gの減速力が得られるため、下手にブレーキを踏むよりはるかにスムースに速度を落とし、慣れれば(半日も乗っていれば)ピタリと停止線位置に完全停止することだってできる。
およそ60km/h以上になると、高速走行対策でワンペダルによる最大減速Gは0.1G以下になり、減速効果は弱まるものの、よりスマートに減速してくれる。実際に2列目席に乗ってみると、ワンペダルが機能しないノーマルモードでブレーキを踏まれるより、減速時の上半身、頭の揺れが小さくなることを体感。快適度が高まると同時に、車酔いしやすい人にも効果があると思えた。そう、重心が高く、乗員の揺すられ感が強くなりがちなミニバンにとって、e-POWERが最適なパワーユニットといえる理由がそこにある。
もちろんバッテリーが十分にあれば電気自動車ゆえモーター駆動のみの静かな移動空間となり、プロパイロットをOP装備すれば(できればe-POWERは上級グレードなのだから標準化してほしいが)、ドライバー、乗員ともに長時間、長距離のドライブでもかつてない快適感、疲労度の少なさを実感できるに違いない。
では、エンジンがしゃしゃり出てくる!? のはどんな場面か。まずは当然だが、バッテリー残量が少なくなり、発電する必要があるとき。そして暖房を使うときだ。後者はエンジンが1.2リッターと、熱源が小さいからである。ちなみにエンジンが回っていても火が入らず、ガソリンも消費しないモータリングというモードも存在する。これはブレーキを作動させるため負圧が足りないとき、そして長い下り坂を走り、バッテリーがパンパンになってしまったときにあえて電気を消費するためのモードである。
念のため言っておくと、入念な遮音対策が施されていることもあって、たとえエンジンに火が入って始動しても、発生するノイズレベルはノートe-POWER比で約20%低減されているから、モーター走行時との煩(うるさ)さの差は格段に小さい。よって1-3列目席の会話も、容易な静粛性がエンジン始動の有無にかかわらず確保されているというわけだ。
くり返すけれど、セレナe-POWERは新しいカタチの電気自動車、ミニバンである。価格はS-HVに対して約50万円高だ。えっ、そんなに違うの……と思うのは早合点。他メーカーのライバル車のガソリン車とHVの差額もそんなものである。
つまり、すでにコスト的にこなれたノートのシステムを使うことで、ミニバンの電気自動車をユーザーが納得できる範囲の価格に抑えてくれたのがセレナe-POWER。ノートe-POWER同様、大ヒットすること間違いなしと思える。