広さで劣るセダンにもメリットはある!
では、高級サルーンの後席にメリットはないのか、と言えば、ある。ひとつ目は静粛性。ミニバンは新型アルファード&ヴェルファイアのように遮音、吸音性能を追求しても、そもそも背高で空気抵抗が大きめのボディだから、風切り音などでサルーンに敵うはずもない。しかもレクサスLSは初代以来、世界を震撼させた超静粛性自慢のクルマなのである。
そして長時間の着座での疲労感レベルに直結するシート振動でも、フロア&ボディに固定されたサルーンの後席が圧倒有利。ミニバン、それもロングスライド機構を持つシートはその点で不利で、なおかつアルファード&ヴェルファイアのエグゼクティブラウンジの場合、シート外側のひじ掛け部分にリモコンなどが備わり、ひじ掛け単体重量は20kg。その重さが振り子のようになるのが災いし、走行中、ビリビリした振動を伝えやすいのである。新型アルファード&ヴェルファイアでは改良の結果、多少は改善されているが、振動皆無ではない(開発陣も改良点として認めている)。
自然発生のシート振動は(マッサージ機能の振動とは違う)、繰り返すけれど、長時間付き合っていると疲労につながり、また、実際問題として、手帳にメモなどを書く際、手が震えてきれいな文字が書きにくかったりするのである。
以前、アルファード&ヴェルファイア・ハイブリッド(HV)とレクサスLS(旧型)、メルセデス・ベンツSクラスPHVの後席快適性比較をCARトップ本誌で行ったとき、インプレッションのメモが、アルファード&ヴェルファイアだけまともに書けず、あとで読めなかった残念な経験がある(新型アルファード&ヴェルファイアでは文字が書けるまでに改善されている)。
最後に乗り心地についてだが、これはもう、ミニバン、とくに背高のボックス型ミニバンの場合、横転防止策として足まわりを乗り心地方向に振りにくいのが実情。それでも新型アルファード&ヴェルファイアのエグゼクティブラウンジのように、開発基準の乗り心地に特化させた17インチタイヤ、専用サスペンションを奢るグレードなら快適感は相当に高いものの、それでも高級サルーンを凌ぐには至らない。
というか、低重心という乗り心地に振りやすいパッケージを持つサルーン、それも超高級サルーン同等の乗り心地が、ドアやテールゲートの開口部も大きい剛性面でも不利なミニバンで得られるわけもないのである。
結論として、車内空間広さ、リラックス度、乗降性ではミニバン。シートの掛け心地そのもの、振動のなさ、乗り心地の上質さならサルーンということになるだろう。もしボクが後席住人として選ぶなら、後席の背もたれ角度の差、つまり旅客機のアッパークラスにあるフルフラットシートのように快眠できそうなミニバンを選ぶ。あれ、それってけっこう決定的な差だったりして。
そうそう、熟睡するのではなく、リクライニングして後席エンタテイメントシステムでTVやDVDを観るという視点では、高級ミニバンというよりスポーツミニバンと呼んでいいオデッセイのプレミアムクレードルシートが優秀だ。背もたれが中折れし、寝ころんでも上体が前を向くシートである。寝心地も抜群である。
多忙極めるVIPや芸能関係者にとって、車内移動中に仮眠・快眠できるか、できないかは大きな問題なはず。VIPでも芸能関係者でもないので想像ですが……。