違法カスタマイズの要求をしてくる顧客も
あるセールスマンに聞いたところ、新人のころに直属の上司とクルマで得意先へ向かうときに、「われわれの名刺ほど世間で軽いものはない」と話してくれたという。冷やかし半分で見にきたお客にも名刺を渡すのがセールスマンの大切な仕事。上司はネガティブなたとえ話ではなく、それぐらい多くのお客さんに名刺を配りなさい、という励ましの意味だったと、話してくれたセールスマンは前向きに受け取ったという。
いろいろなタイプを相手にしなければならないセールスマンとしては、大抵のタイプのお客についてはつつがなく接客していけるが、中には苦手とするお客も多い。人気の高い大型ミニバンが欲しいというお客との商談では、この手のモデルに多いエアロ仕様などのカスタマイズでよく揉めるという。
「ホイールハウスからはみ出すぐらいの大径タイヤや、透過度が違法なウインドウフィルムの装着をディーラーの整備工場でしてほしいと要求されるお客様は時折いらっしゃいます」。このような加工はもちろん違法行為であり、ディーラー併設の整備工場ではできるはずがない。
「ただでさえディーラーには運輸支局の抜き打ち検査も多いので、そのような加工をしたおクルマをお預かりすることもできません。丁重にお断りの説明をしても納得されない方もいらっしゃいます」とのこと。
このようなお客は受注後もトラブルを抱え続ける可能性が高いので、やんわりとほかの店で買うように持って行くこともあるとのこと。その後、どうしてもその1台の受注が欲しいという別のセールスマンや店舗が現れ、リスク承知で受注することも多いようだ。
すべてのディーラーがコンプライアンスを重視しているわけではない。運転中もカーナビでテレビが見られるような用品の取り付けを目玉にするような店もあるので、違法改造を要求するお客がいなくならないという背景を業界で作り出しているのも現状である。お客とのトラブルでは、セールスマンのちょっとした確認ミスなどが原因となっていることも多い。
ある若い女性が免許を取ったとのことで、その家のクルマを販売したセールスマンに、お父さんから増車の話が持ち掛けられたそうだ。
さっそく店頭で実車やカタログを見せながら商談がスタート。その女性が「この内装の仕様がいい」とカタログの写真を指すので、ボディカラーも決めて受注となり、あとは納車を待つばかりとなった。
そして納車の日、納車される自分のクルマを見てその女性は「カタログとちがう」と泣き出したそうだ。確かにカタログどおりの内装なのだが、カタログ写真で装着されていたオプションが装着されていなかったのである。女性が「いい」といった写真はオプション装着の状態だったのである。
すでにナンバープレートも取得しており、本来はキャンセルを申し出ても現車を下取りして新たに注文しなおすぐらいしか方法がないのだが、それでは結構な額の“追い金”も発生してしまう。お得意さんとの商談であること、そして受注時の確認が不十分だったということで、無条件で新車への交換となった。
別のケースでは、内装色が選べる車両を販売したケース。このケースでのクルマは絶対選択しなければいけないというものではなく、とくにお客が選択しないと決められた内装色になるというものであった。
商談も順調に進み契約となり、そして明日納車というときにセールスマンは重大な失敗に気がついた。内装色がお客の希望になっていなかったのである。注文書への記載を忘れてしまったのだ。このようなケースでは厳密には、お客も注文内容を怠っていたのだが、そんなことは客商売などで主張するのは難しい。正直に事情を話し、希望の内装色に近いシートカバーがあったので、それを無料サービスすることで納得してもらったようだ。
とにかく何かトラブルが発生した時には、何が原因かとかは別として、まずはお客のところへ速やかに報告に行き、頭を下げるのがトラブル処理の常道とされている。
このようなトラブルはセールスマンの確認ミスがまず原因となるのだが、われわれ消費者もしっかり確認すれば防げた事例でもある。“わかっているはず”ではなく、余計な一言とは思わずに、“お互いの信頼のために”と念をいれた確認をすることがまずトラブルを未然に防ぐのである。