今となっては性能よりもスカイラインGT-Rのもつ背景に魅了される
ハコスカ(PGC10)が1310万円、R32GT-Rの初期型が800万円、R34GT-R V-specIIが3200万円……。いずれも2018年の東京オートサロンで行われた、日本初の希少車オークションでの落札価格だ。人気というものの価値観をお金で計るというのは正直嫌いなのだが、歴代スカイラインGT-R、とくにハコスカ、ケンメリ、R32、R34の人気が高いというのは異論がない。その人気の理由はどこにあるのか?
経済学では、需要と供給、つまり人気と評判で決まる価格的な価値のことを「交換価値」という。もうひとつ、クルマなら機械としての精度、優秀性、デザイン、使い勝手、パフォーマンス、音などで決まる「使用価値」というのもある。
歴代GT-Rがデビューしたとき、いずれもこの「使用価値」が突出していたというのは、GT-R人気の大きな理由だろう。たとえば、ハコスカ。標準車のL6型エンジンが105馬力(のちに115馬力)だったのに対し、R380の心臓=GR8型直系のDOHC24バルブ、160馬力のS20型エンジン搭載。最高速度も200㎞/hオーバーで、“国内最強・最速”と評された。
R32GT-Rも同様で、280馬力時代のパイオニア=RB26DETTを搭載。独自のトルクスプリット4WD、アテーサE-TSシステムとの組み合わせで筑波サーキット、ゼロヨン、最高速などあらゆる記録を大幅に更新。ニュルでもポルシェ911ターボのタイムを上まわったのは圧巻だった。
つまりスカイラインGT-Rはその時代、その時代の、国産スポーツモデルのパフォーマンスとクオリティを一気に10年分進化させたような革新的な存在で、それだけ大きな「使用価値」を持ち合わせていたといえる。
しかしこれらの「使用価値」、簡単にいえばパフォーマンスだけで考えれば、今日ではハコスカ以上のエコカーもあるだろうし、R32GT-Rよりも速いクルマは何台もある……。したがって、スカイラインGT-Rの人気の理由はパフォーマンス=「使用価値」だけでは説明できない。
つまりもうひとつの価値、「象徴価値」の影響が大きいということになる。「象徴価値」とは、物語を共有できる価値と思えばいい。スカイラインは“スカG伝説”と言われる、他車にはないストーリー性を持った稀有なクルマだ。
1964年の第2回日本GPでポルシェ904を1周だけリードした二代目スカイライン=S54Bからはじまり、ハコスカのレースでの49連勝(諸説あり)、そしてR32GT-Rは16年ぶりのGT-Rの復活。グループAレース29勝無敗、量産エンジンベースで600馬力オーバー改造範囲の狭いN1耐久シリーズでも、29戦28勝という大記録もある。
一方でケンメリGT-Rは、排ガス規制の影響でわずか197台で生産中止になったという希少性があり、R34GT-Rは本格的な空力マシンの先駆けであるだけでなく、最後の“スカイラインGT-R”というのが大きい。
そのほかにもサーフライン、丸4灯テールレンズ、4ドアセダンベース、直列6気筒エンジン、6連スロットル、桜井眞一郎、伊藤修令、長谷見昌弘、星野一義、ニュルブルクリンクなど、よくいえば伝統、悪くいえば、しがらみや制約。そういったものを全部ひっくるめて、「スカイラインGT-R」という壮大な「物語」を、ファンの間で共有できる。それがスカイラインGT-Rの強みであり、人気の源泉なのではなかろうか。