できたてホヤホヤの生タイヤを金型から抜く時にできる
新品タイヤ表面に無数に生えているゴムのヒゲ。あのヒゲには「スピュー」という名称があるのだが、通常「タイヤのヒゲ」でハナシは通っている。
じつはあのヒゲの正体はタイヤの製造過程のクライマックス、“加硫”のときのエア抜きのあとなのだ。
タイヤ作りの現場ではカーカス・ベルト・ビート・トレッド・サイドウォールといった、各パーツを巻いて切って重ねて組み合わせた「生タイヤ」というものを作る。この「生タイヤ」を雌型だけの金型=モールドに入れて、内側から60kPaぐらいの空気の圧力で押し付け、高温(140度~185度)による熱化学反応、いわゆる加硫によってゴムに弾力性を持たせ、トレッドパターンなどの成形を行う。
このモールドの内側から生タイヤを膨らませ型に押し付けていくとき、生タイヤとモールドの間に入っている空気をどこかで抜かなければならない。そのエア抜きのための穴がじつはモールドには無数にあり、そのエア抜きの穴に入ったゴムが固まったのが、ヒゲ=スピューになる。
モールドから取りだされたばかりのタイヤは長くて立派なヒゲが生えているのだが、出荷前に専用のカッターで短く刈りそろえられている(元の長さは30ミリぐらい)。
夏用タイヤよりサイプ(細かい溝)が入っているスタッドレスタイヤの方がヒゲの数も多い傾向があるが、上記のようにタイヤメーカーの工場で性能に影響がない長さまでカットされて出荷されている。またナラシ走行(タイヤの皮むき)の間にこのヒゲはきれいになくなるので、とくに気にする必要はない。
ちなみにスーパーGTに参戦する日産系のトップレーシングドライバー・本山 哲は、レーシングカート時代「新品タイヤのこのヒゲがどうしても(走行中に)気になって我慢できない」と言い、メカニックに一本一本ニッパーでカットさせたという逸話がある。それだけ鋭敏なセンサーの持ち主だった……。細やかな神経を持ち合わせていても、遅いドライバーであれば、ヒゲを切るといったオーダーに応えてもらえないのもレース界の掟。速さはなにより重要といえる。