不人気車は「値引きが大きい」という噂は本当か?

値引きはディーラーで「長期在庫」になりそうかどうかが影響

「人気が今ひとつなら値引きもたくさんしてくれるかも?」と考えるひとがいるかもしれないが、実態からすると“遠からず近からず”のようなものと考えてもらいたい。

 まずは新車の購入に関する商談のなかで提示される値引き額の原資は、車両本体価格からの値引き(車両本体値引き)、オプション装着用品総額からの値引き(オプション値引き)、そして下取り査定額の上乗せからおもに構成されている。さらにディーラーローンを利用すれば、ディーラーが提携しているファイナンス会社からディーラーが受け取るバックマージンの一部が値引きアップに充当されたりもする。値引き

 車両本体値引き以外は購入対象車が人気車だろうが、不人気車だろうが関係なく引き出すことが可能な値引きといえる。このテーマの焦点は車両本体値引きについて、不人気車のほうがより多く引き出しやすいかということになるが、人気の度合いで値引きに差が出ることはないといえるのが結論となる。

 値引きが引き出しやすいか否かの判断は、在庫になりやすいか否かということのほうが大きく影響するといえるだろう。

 ディーラーの多くは売れ筋モデルを、受注していないにも関わらず先行してメーカーにオーダーをかけ、事前に自社のストックヤードに置くことで納期を早めるようにしている。ただし、ディーラーのオーダーを受け付けるかわりに、売りにくいボディカラーやオプションてんこ盛り(逆のケースもあり)のモデルもわかりやすくいえば“抱き合わせ”的にメーカーから供給されることもあると聞く(最近はオーダーもしていないのにある日突然メーカーから新車が割り当てられることもあるとのこと)。

 とくに新型車のデビューするタイミングでの初期ロット配車に関しては、ディーラーの事前予約の状況に関係なく、メーカーが一方的にボディカラーやオプションの仕様などを決めてディーラーに一定台数が配車される。これは初期ロットの車両に関しては、一般的には各ディーラーで展示や試乗車になるケースが大半ということもあるようだ。ただし、発表前の事前予約受注がかなり多くなると展示車や試乗車の設定を後回しにして、予約受注分の配車が最優先されることが多く、この限りではなくなる。

 初期ロット車両の一部や抱き合わせ的に供給された車両に関しては、結果として売りにくい車両となり、在庫車のなかでも長期在庫化しやすいので、結果として“売り急ぐ”傾向も強くなるため、値引き額も拡大しやすい。それにより“不人気車=値引きが拡大しやすい”というイメージが広く世間に浸透してしまっているようだ。

 ただモデル自体の人気がいまひとつというケースならば、もともとディーラーも先行して取り寄せることはせずに、注文が入るたびにメーカーの工場で生産する、“受注生産”となってしまうケースが大半なので、値引き額が伸び悩むケースのほうが多い。

 それではディーラーではなぜ、自社で管理する在庫車の値引きのほうが拡大しやすいのだろうか。

 ディーラーはメーカーから車両を仕入れる、つまり購入していることになる。この場合ディーラーがメーカーへ支払う“仕入れ代金”の支払いは一定期間(数カ月)の間、猶予されるのが一般的(ケースによってはキャッシュ・オン・デリバリーもあり)となる。

 “売れる”と思い、エンドユーザーからの受注に関係なく先行してオーダーして仕入れた車両を代金決済までに売り払う必要があるので、ディーラーがストックしている在庫車は値引きが拡大しやすいのである。ここでは人気車あるいは不人気車に関係なく、“在庫”というキーワードが値引き拡大に大きく影響することになる。そのため本来なら趣味性が高く受注生産になりやすいスポーティモデルでも、タイミング良く希望に近い条件の在庫車があれば、値引き条件の拡大は一気に引き出しやすくなるのである。

 このような傾向は日系ブランドよりも輸入車でより顕著となる。

 輸入車の場合は日本法人からは、細かい希望車種のオーダーを本国のヘッドクォーターが受け付けないのが原則。あくまでも“リクエスト”として聞くだけで、ヘッドクォーターが同一車種内でのボディカラーやグレード、どんなオプションの組み合わせで装着するかなど、出荷車両のバランスを判断し船積みして出荷することとなる。

 これはアメリカなど諸外国の自動車メーカーとそのメーカー系ディーラーでの車両供給でも一般的なものとなっている。つまりメーカーから配車される車両のなかには売りやすいモデルと売りにくく在庫になりやすいモデルが混在しているのが一般的なのである。

 そのため輸入車に関しては、日本への海上輸送中から人気ボディカラーや、人気のオプションの組み合わせの車両の受注が決まるとのことだ。売り先も決まらず日本に陸揚げされるモデルのなかには、ボディカラーが個性的なものや、オプション装着が過多(その逆もあり)なものも多く、それが在庫になりやすく、とくに年度末などの増販シーズンには値引きが極端に拡大するケースも目立っている。

 結論としては、販売台数が少ない、つまりモデル自体の人気がいまひとつの場合は、受注生産になるケースが多く、ここまでくると値引きは伸び悩む傾向が強い。逆に販売台数が多く人気も高い量販モデルでも、ボディカラーやオプションなどの関係で“売れにくい仕様”となり、長期在庫になりやすいモデルは納得できる値引き条件が引き出しやすいといえるのである。

 ただし、“在庫になりやすいから値引きを極端に拡大してでも新車として売り払う”という傾向にも変化が出てきている。

 今は日系ブランド、輸入ブランドともに“認定中古車”というものの設定に積極的である。ディーラー名義などで自社登録(軽自動車は届け出)してそのまま未使用の状態や、試乗車や代車として短期間で使用したあとのモデルが認定中古車として設定され販売される。

 また別のパターンでは、無理して値引き拡大するより、自社で登録(軽は届出)してオークションに出して現金化するディーラーなども目立っている。

 メーカー系ディーラーによってその判断はわかれているが、全般的にみると新車販売においては、交渉次第で値引き拡大が期待できる“訳あり商品”は減りつつあるのがトレンドとなっているようだ。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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