イギリスやドイツは乗務員主体のタクシーとなっている
ここで前述した一部の乗務員から実車を見て「話が違う」という意見が出た背景を考えてみた。そこで感じたのは、実際にステアリングを握るタクシー乗務員への作り手側のリスペクトの気持ちがJPN TAXIからはあまり伝わってこないところにあるようだ。
今まで日本のタクシー車両のメインは、“コンフォート”などのペットネームはつくものの、“クラウン”や、数年前に生産中止となったが“セドリック”といった日本を代表する高級セダンの流れを汲むものであった。
セドリックはともかくとして、クラウンはほぼ国内専売モデルとして長年ラインアップしてきたものの、“日本の高級車”として海外でもその知名度が高かったモデル。当然ステアリングを握るタクシー乗務員のなかには“クラウン(セドリック)を運転している”ということを特別視するひともいるだろうし、そのような車両を供給するだけで、十分にメーカーサイドのプロドライバーたるタクシー乗務員へのリスペクトというものは伝わったはずである。
となれば、まったく新しい車名でボディスタイルも異なるJPN TAXIは、タクシー乗務員へのリスペクトというものを今まで以上に丁寧に盛り込んでいく必要があったのではないかと思うのだが、今のところ筆者にはその部分を強く感じることができないでいる。
ドイツのタクシーといえば、メルセデスベンツEクラスセダン。最近はステーションワゴンだけでなく、Eクラス以外の車種も目立ってきたが、2017年9月に開催されたフランクフルトショー会場内に展示してあったEクラスセダンのタクシーのスペックボードには“DAS TAXI(英語でTHE TAXIとなるドイツ語)”と書いてあった。
ドイツの空港に降り立ち、Eクラスのタクシーに乗るとアウトバーンを200㎞/h近い速度を出して目的地まで向かってくれる。世界的に有名な高級車をタクシーに使っているだけでも驚くのに、道路インフラも含めてその性能をこれでもかと見せ付けてくる。“タクシーはその国の顔”などとも言うひとがいるが、Eクラスタクシーはまさしくそれを体現させてくれる。
一方TX5には、おもに使われるロンドンでのタクシー乗務員の社会的地位が極めて高いこともあり(乗務員になるための資格試験がかなり厳しかったりもする)、TX5にはタクシー乗務員へのリスペクトを強く感じる部分が多く見受けられた。そのひとつがインパネである。計器盤には大型のカラーディスプレイが採用され、スピードメーターなどが擬似表示されている。
これはメルセデス・ベンツやBMWなどの高級車ブランドで積極的に採用されているもの(日本車にはほとんどない)。インパネセンター部には、タブレット端末ぐらいの大型ディスプレイが設置されている。さらにシフトレバーは電子制御式が採用されている。
JPN TAXIもスピードメーターはデジタル式を採用している。ただ実用面では問題はないのだろうが、色味も少なく計器盤スペースが狭いので「それぐらいの情報表示で運転に支障がないのかな」と素朴な疑問を覚えてしまった。軽自動車のダイハツ・ミライースのほうが計器盤レイアウトは華やかと感じた。
また、インパネセンター部にはカーナビや料金メーターをレイアウトさせるため、空調コントロールを運転席に座って右側に配置しているが、シフトレバーは通常のセレクター方式でセンター部に鎮座している。“業務用なのでこれで十分”といったもののほうを強く感じてしまった。