【試乗】単なるオマージュじゃない! ドライバーを興奮させる新型アルピーヌA110の走り (2/2ページ)

手足のように扱えるコントロール性のよさに心酔

 2代目を襲名した新型A110は、初代にちなんだモデルである。こうしたクルマのデビューのときには「かつての名車を現代流に再解釈し直して蘇らせた」というようなフレーズを耳にすることが多いのだが、新型A110の開発アプローチはそれとは似て異なっている。「A110がずっと作られ続けていたとしたらどうなっただろう? と想像しながら開発した」というのだ。

 つまりA110が時代とともに進化を繰り返してくる過程をひとつひとつ想像しながら、“A110らしさ”を追求した最新型を作り上げた、ということなのだろう。開発陣の心と頭の中にあったのは“復活”ではなく、“継承”であり“進化”だったのだ。

 だからなのだろう、2代目A110のなかにはスタイリングのみならず、初代の素晴らしかった部分をあちこちに見ることができる。車体のレイアウトはRRからミッドシップへ、基本構造はバックボーンフレーム+FRPボディからオール・アルミ製へ、サスペンションは4輪ダブルウイッシュボーンへ、エンジンは1.8リッターターボへ、車体の下面の後ろ1/3を占める大型リヤディフューザーが備わるなどエアロダイナミクスも考慮され……と、その“進化”の痕跡は多岐にわたるどころの話ではないが、走らせて感じられるテイストには驚くほど共通項を発見できたのだ。

 初代A110の最大の特徴は、とにかく軽快であり、俊敏であるということだった。そして新型A110もそこが最大の特徴であり、そこを声を大にして賞賛したいクルマに仕上がっていた。ワインディングロードやサーキットを走ったときのステアリングの正確さ、身のこなしの軽やかさと素早さは、大袈裟ではなく感動的といえるレベルである。

フロントタイヤは常に貼りつくように路面を捕らえ続け、プッシングアンダーを感じさせることもなく、代わりにリヤタイヤがジワジワとグリップを手放していこうとするような動きを伝えてくる、絶品ともいえるバランス感覚。荷重移動を利用してリヤをスライドさせていく楽しみ方だって、ウデか慣れさえあればそう難しくなく味わえる。クルマ全体の動きがとにかくわかりやすく、ドライバーの操作に対してエンジンの反応もステアリングの反応もいいから、コントロールしやすいのだ。初代A110もまさしくそうしたタイプのスポーツカーだったから、古くからのファンにとっては感涙モノである。しかも新しいA110はそれをさらに高次元で味わわせてくれるのだ。かつてのA110を知らない世代にも、その楽しさと気持ちよさは間違いなく大きな感動を植え付けることだろう。

 1.8リッターターボはあらゆる領域から素早く充分なパワーとトルクを解き放ってくれて、単に1103kgという軽い車体を爽快に加速させるだけでなく、シャシーの働きを極めて効果的にサポートしている印象だ。252馬力に320N・mだから驚くほどの速さがあるというわけでもないが、ターボの存在をほとんど意識させない鋭いレスポンスと勇ましい吹き上がり、初代A110をも連想させる、できのいい4気筒のスポーツ・エンジンらしい歯切れのいいサウンドは、ドライバーを延々と興奮させ続けるに充分だ。

しかも嬉しいことに、見た目のイメージよりも遙かに扱いやすいし、乗り心地も望外に快適で、日常使いだってGTカー的な使い方だって楽々こなしてくれる懐の深さも持っている。1台のスポーツカーとして、夢見心地になれるほど魅力的なのだ。これに惚れなかったら嘘だと思う。

 日本へ上陸を果たすのは、おそらく2018年の後半。価格に関しては現時点では当然未定だが、本国の5万8500ユーロ(約790万円/1ユーロ135円で換算)という数字がひとつの参考にはなるだろう。絶対的な金額としては安いとはいえないし、簡単に手が届くわけでもないけれど、夢を見ることぐらいはできてしまいそうな絶妙なところにある。だから今、僕の頭のなかはとても忙しいし、心は激しく掻き乱されている。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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